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人物クローズアップ “第2の「千の風になって」”生み出した樋口了一からの『手紙』

 昨年10月22日に発売されたCD「手紙」が、オリコン5月25日付シングル週間ランキングで9位に入った。半年以上にわたってジワジワと支持を広げ、今や第2の「千の風になって」との呼び声も高い。この曲を世に出し、そして歌い続けるシンガーソングライターの樋口了一(45)に話を聞いた。

 この曲が生まれるきっかけは、友人でポルトガル語翻訳家の角智織(すみともお)さんの元に届いた1通のチェーンメール。そこにはポルトガル語で書かれた作者不詳の散文詩が記されていた。
 「最初、角さんは訳した詩をパソコンのスライドショーにして、僕を含めた4〜5人にメールで送ってくれんです。モニターに映し出される言葉がリアルで、脳裏に映像を呼び起こされるような感じがしました。2〜3日たっても忘れられなくて、角さんに改めて訳詩を送ってもらい曲を付けてみたんです」
 歌詞にしては直接的、率直な内容で、日本の楽曲にはなかったような言葉で構成されている。
 「最初は驚きましたが、海外の人たちのコミュニケーション手段にユーモアを感じて、すごく柔らかい考え方で表現する視点を持てました。確かにJ-POPにはないものですが、だからこそ“曲にしたい”という思いが強まった感もあります。これを歌にするのもアリかと」
 詩の内容は一見して、高齢の親が子供に自らの老いを訴える“衰えの歌”のようにも受け取れる。
 「でも、僕は逆の力強さを感じたんです、老いていく人が立ち上がる…みたいな。こうした力強さや安心感を曲に滲(にじ)ませたせいか、リアルな言葉で内面に踏み込んでいく、聞く人に対して癒やしや救いを持った曲になりました。これまで僕が抱いていた“メッセージ性を持った音楽を作っていたい”という思いを、違った手法で実現できたんじゃないかな」
 訳詩に触れたとき、自分の心の中にしまっていた映像がよみがえり、それが大きな安心感につながり、やがて詩の内容に対して肯定的な気持ちになっていったという。
 「生まれて四十数年。幼いころの父親の思い出とか、いろんなことがフラッシュバックしてきて。僕の支持層は割と同世代がメイン。僕には80過ぎの両親に、5歳と2歳の子供がいます。ファンも似たような家族構成でしょう。昔からのファンは『手紙』に、違和感より同世代としてのシンパシーを感じ取ってくれたんじゃないかと思います」

 だが、リリースから半年が過ぎた今、ここまで広まるとは具体的に想像していなかった。
 「僕の曲がファン以外に広がっていくのって、初めての経験なんですよ。作曲中は多くの人に伝わって欲しいとは思ったけど、いかんせん経験がないですから。最初はインディーズで出そうと思ったんですが8分以上もあるし、CDにしたいけど無理かなって。これは生で伝えるしかないと(笑)。でも、テイチクさんからリリースが決まったとき“売れる売れないは関係ない。この曲は一人歩きするから別に心配してない”って言われたんです。その気持ち、よく分かったので僕も不安はありませんでした」
 実際に親の面倒を見ていたり介護に携わっている人たちから、数多くの手紙が届いているという。それは封書はもちろん、メールも。
 「曲を聞いて返事を書きたくなる方が多いみたいです。しかも皆さん、長い文章で思いをつづられて。これはJ-POPにはないリアルさです」
 先ほど“生で伝えるしかない”とあったが、聞きたい人のもとを訪ねて生で歌う「ポストマンライブ」を、今年1月から実際に続けている。
 「普通のコンサートと違ってリアルな反応を感じます。ご夫婦二人と相対して歌えば、向こうからも感情が伝わってくる。それがまた僕のエネルギーになるんです。この曲を聞いて涙を流す方が多い。でも、それは悲しいからではなく、忘れて洗い流してスッキリする、そうした涙なんです。僕も最初この詩に触れたときの衝動をできる限り忘れず、軸をブレさせず、テンションを保ったままでいたい。直接この歌を届けに行き、なるべく生で聞いてもらいたい。その意味で今年の目標は…健康でいること(笑)」
 樋口を語る上で欠かせないのが、大泉洋らが出演していた北海道の人気ローカル番組「水曜どうでしょう」。エンディング曲「1/6の夢旅人」はファンの愛唱歌だ。
 「『1/6の夢旅人』と『手紙』は内容が真逆のようですが、人を応援したいという点で目的は一緒なんです。先日も『どうでしょう』の藤村忠寿ディレクター(D)と一緒に“姫だるま”で有名な大分の温泉に行ったんですが。番組のファンの前で藤村Dがこの詩を朗読し始めたら、途中で爆笑し始めて読むのを止めちゃった。後で湯につかりながら“なんで爆笑したの?”って聞いたら“泣きそうになったから”だって。いかにも藤村Dらしい理由でしょ」
 これまでTOKIOやV6らに楽曲を提供してきた“作家”でもある樋口。最近、常に曲作りを迫られる創作活動へのプレッシャーとは別の意識を感じていたという。
 「ここ数年、単にいい曲というだけでは足りないのでは? 真に人から必要とされる曲が存在するんじゃないかと、自分に問いかけてきました。その答えのようなものが『手紙』で見えた気がします。結果的に『手紙』が人から必要とされる曲、イコールいい曲になればいいと思います。僕もまた詩の言葉に、手紙に鼓舞され励まされている一人。聞いて下さる皆さんと一緒です」
 あす26日には「歌謡コンサート」(NHK総合・午後8時)にも出演する。まだ聞いたことのない方は、一度ぜひ耳を傾けてほしい。

 ひぐち りょういち 1964年2月2日生まれ、熊本県出身。立教大学中退。93年「いまでも」(東芝EMI)でデビュー。主に作家としてさまざまなアーティストに楽曲を提供。97年「Anniversary song」リリース後、活動小休止。03年、6年ぶりの新曲「1/6の夢旅人2002」で本格的にアーティスト活動を再開。

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