「散らかっているので、少しここで待ってくれませんか。ほんの1〜2分です」
「わかりました」
しかし、待てど暮らせど一向にライターは出てこない。
「○○さーん どうですか?原稿」
ノックしても、大声で呼んでも出てこないのだ。
(ひよっとして中で倒れているのではないか)
と心配になり、編集者は携帯電話で救急車を呼んだ。また、編集者の大声を聞きつけた隣人が管理人を呼びに行った。そして、救急隊員3名、管理人、編集者、隣人の6名で室内に入っていった。やはり鍵は内側からかかっており管理人の鍵で開けた。
しかし、3DKのマンションには誰もいない。ほとんど家具のないこの室内で隠れるのは不可能である。
(ライターはどこに消えたのであろうか?)
天井への入り口もなく、窓はあるもののベランダもない上、8階から飛び降りる事は不可能である。屋上へ逃げる事も同様であり、この状態での失踪は不可能と言えた。ただ、編集者が印象深く覚えているのは、机の上にワープロ原稿が残っており、開いた窓からの風でその原稿がひらひらと揺れていた点である。そして、その原稿にはこう書かれていたのである。
「俺は成功した。空を飛ぶ事に成功したのだ」
…これは果たして真実なのか、8階から本当に飛び降りたのだろうか?
このライターの妄想なのだろうか。とすると編集者も共犯なのか。
ライターの行方はいまもって不明であるという。
(監修:山口敏太郎)