7世紀ごろ、イスラム教徒の征服者たちがエジプトに到着し、この国の文化に多大な影響を与えた。この時の軍事作戦の指揮官だったアムル・イブン・アル・アスは後にエジプト総督となり、この地を支配した。
征服者たちに占領されてから数年間、エジプト人支配者たちはこの地に残る歴史の重要性を理解し、多くの人が眠るネクロポリスを現在「死者の都市」として知られる墓地へと広げてきた。
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以降数百年間、ネクロポリスには王族、政治家、学者、作家などの人物が眠る墓、霊廟、建築的価値のあるものがずらりと並ぶ。墓地のいくつかはユネスコの世界遺産に登録されている。
この地域にまだ住んでいる人たちもいるのだが、彼らの土地も含め歴史的遺跡の大部分が、政府の強引な道路建設プロジェクトによって取り壊しが進みつつあるというのだ。
エジプト当局は今回の道路建設について「カイロの交通渋滞を緩和するため」と主張しているが、「この計画は単にエリートの利益のために展開されているにすぎず、労働者階級の意見にはまったく関心がない」と反対側は主張している。
この工事に関する関心が高まったのは2020年、2つの道路網の建設がネクロポリスのマムルーク朝時代の箇所を傷つけて物議を醸したときだった。
この時の被害はネクロポリス全体の1%に相当する規模だったが、それでも欧州の大規模な墓地と同等か倍以上の広さが失われたという。
この一件で国民、メディア、ユネスコから大きな反発が起こり、この道路開発プロジェクトは停止した。
しかし1カ月前になって再びネクロポリスの近くで工事が始まった。地元の人々は、この建設プロジェクトがかえって街の都市構造を台無しにしていると訴える。特に破壊されつつある何百ものイスラム建築の宝物や葬儀の美術品について懸念を表明している。
『Architecture for the Dead: Cairo's Medieval Necropolis(死者のための建築:カイロの中世ネクロポリス)』の著者で、パリの持続可能な開発研究所の研究責任者であるガリラ・エル・カディ氏は次のように語る。
「1400年前の歴史的遺産が失われたことは、とてつもない損失です。そこに埋葬された人々の墓に関する損失であり、これらの場所の記憶に関する損失であり、最後の安息の地における(死者の)安全に関する損失です」
都市開発も重要だが、歴史的な遺跡の保存や維持もまた重要。エジプトの首都で起きる都市開発問題は一体どのような結末を迎えるのだろうか。
山口敏太郎
作家、ライター。著書に「日本怪忌行」「モンスター・幻獣大百科」、テレビ出演「怪談グランプリ」「ビートたけしの超常現象Xファイル」「緊急検証シリーズ」など。
YouTubeにてオカルト番組「アトラスラジオ」放送中
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https://www.dailystar.co.uk/news/world-news/treasure-trove-city-dead-reduced-30318283