一見何事もなさそうな古い刀ではあるが、この写真には1点不可解な箇所がある。刀のハバキ(刃の下部分)に当たる部分にご注目いただきたい。
ガラスケースの露やくもりとは明らかに違う白いモヤモヤが浮かんでいるのがおわかりになるだろうか。人によって見方は違うかもしれないが、写真を直接見た人間の多くは「刀に向かって伸びる手のようにみえる」と語っていた。
この写真は数年前にオカルト研究家・作家の山口敏太郎の友人から提供されたもので、長らく事務所で保管されていたもの。
撮影場所は都内の某博物館としかわからず、刀の名前のほか誰が所持していたものかは不明である。
もっとも博物館に展示してあるということは、それなりの剣豪もしくは歴史に影響を与えた偉人が使っていたものでは、と予想される。
そのため、この手は刀を所持していた剣豪の亡霊、もしくは刀で斬られた人間の怨霊ではないかと推測される。
このような妖気のこもった刀は俗に「妖刀」と呼ばれる。「妖刀」にまつわる逸話は漫画やSF小説でもたびたび題材になる「妖刀村正」の伝説がつとに知られている。
天下統一を図ろうとする徳川家康の行く手をたびたび阻んだ「村正」の伝説は江戸時代より市民に知れ渡り当時の歌舞伎の題材にもされている。
現在は刀そのものが人目に触れる機会が少いため「妖刀」の伝説は一種のファンタジーとしての側面が強いが、刀が身近にあった当時は非常に恐ろしい存在として市民に広まっていた。
現代においても「村正」ほどの名刀ではないにしろ、一般の家で家宝となっている刀が「夜になるとカタカタと動く」「うめき声のようなものが聞こえる」といった話はたびたび報告されており、怪談話として披露されることがある。今回、ご紹介した写真の刀も江戸時代に使われた時の記憶が未だ残っていて現代に蘇ったのではないかと思われる。
明治になり「廃刀令」が伝令され早150年になろうとしている。しかし平成の世の中でも「妖刀」の伝説は語り継がれていくのだ。
文:穂積昭雪(山口敏太郎事務所)