中でも、特に多く取り上げられているのが先場所で平幕優勝(12勝3敗)を果たし、アメリカ・トランプ大統領からも表彰を受けた朝乃山(西前頭8枚目)。富山出身の25歳は、この初優勝で東前頭筆頭(自己最高位)まで番付を上げるも新三役には届かなかった。
朝乃山を抑えて新三役となったのは、ともに「10勝5敗」をマークした阿炎(西前頭4枚目)、竜電(西前頭5枚目)の2力士。朝乃山より上で好成績を挙げたことが、番付を編成する際のプラス材料となったことがうかがえるだろう。
「番付は生き物」とよく言われるように、好成績でも他力士の状況によっては今回のように据え置きされることはある。ただ、過去の平幕優勝力士を振り返ると、今回の例が“レアケース”であることも浮かび上がってくる。
平成以降の大相撲において、平幕力士が優勝を果たした例は朝乃山を含め10例(9力士)。この10例の番付推移は以下の通りとなっている。
琴富士(1991年名/14勝1敗):東前頭13枚目→東張出小結
琴錦 (1991年秋/13勝2敗):東前頭5枚目→西小結
貴花田(1992年初/14勝1敗):東前頭2枚目→西関脇
水戸泉(1992年名/13勝2敗):西前頭筆頭→西張出関脇
琴錦 (1998年九/14勝1敗):西前頭12枚目→東小結
貴闘力(2000年春/13勝2敗):東前頭14枚目→西小結
琴光喜(2001年秋/13勝2敗):東前頭2枚目→西関脇
旭天鵬(2012年名/12勝3敗):西前頭7枚目→東前頭筆頭
栃ノ心(2018年初/14勝1敗):西前頭3枚目→西関脇
朝乃山(2019年夏/12勝3敗):西前頭8枚目→東前頭筆頭
朝乃山と同様に、平幕に据え置かれた例は旭天鵬のみ。その他の力士は全て翌場所に小結、もしくは関脇に番付を上げている。ちなみに、“新三役”という観点で見れば旭天鵬はこれ以前に関脇まで在位経験があるため、今回の朝乃山は平成以降では初の例となる。
三役に届いた例を見ると、いずれも13勝以上の成績を挙げている。朝乃山は先場所阿武咲(6日目)、玉鷲(12日目)、御嶽海(千秋楽)の3名に敗れているが、この中のどれか一つでも勝っておけば三役まで届いていたかもしれない。
さまざまな要因が絡み“お預け”を食らった朝乃山だが、今場所で好成績を挙げれば文句なしで新三役に昇進できることもまた事実。「先場所の優勝は確変だった」と言われないためにも、名古屋の地で今一度実力を証明することが求められているといえるだろう。
文 / 柴田雅人