26日の千秋楽をもって、全15日間の戦いが終了した大相撲夏場所(東京・両国国技館)。令和初の開催となった今場所を制したのは、横綱でも大関でもなく平幕の朝乃山だった。
中日を終え「7勝1敗」と好位置につけた25歳は、11日目に「10勝1敗」で優勝争い単独トップに。翌日は敗れて横綱・鶴竜に並ばれるも、そこから関脇・栃ノ心、大関・豪栄道と実力者に連勝し千秋楽を待たずに初優勝を決めた。
小結・御嶽海と対戦した千秋楽は、立ち合いからの圧力に屈し寄り切りで敗戦。有終の美こそ飾れなかったものの、賜杯と共に殊勲賞(初)、敢闘賞(3回目)をダブル受賞。加えて、今場所新設の米国大統領杯を初めて授与された力士としても歴史に名を刻むこととなった。
そんな朝乃山の優勝は、各メディアによって記録的な優勝であると広く伝えられている。これらの報道によると、今回の優勝は「三役未経験の力士」としては1961年夏場所の佐田の山(元横綱)以来58年ぶり、「富山出身の力士」としては1916年の太刀山(元横綱)以来103年ぶりの快挙であるという。
一方、「所属部屋(高砂部屋)」という視点からみると、今回の優勝は9年ぶりとなる。前回高砂部屋に賜杯をもたらしたのは、今も根強い人気を誇るあの朝青龍(元横綱)だ。
2010年初場所で「13勝2敗」をマークし、自身25回目となる優勝を勝ち取った朝青龍。直後に不祥事の責任を取る形で電撃引退した横綱にとって、高砂部屋最後の優勝は自身最後の優勝でもあった。
そこから先場所に至るまで高砂部屋からは優勝力士が輩出されず、新入幕を果たしたのも朝乃山のみ。ただ、その唯一の力士が、偉大な先輩横綱を最後に止まった時計の針を再び動かした。
朝青龍のツイッターを確認すると、朝乃山の優勝を報告する複数のツイートに「いいね」を寄せている。部屋に久方ぶりの歓喜をもたらした後輩の活躍は、角界を離れた先輩の元にもしっかりと届いているようだ。
文 / 柴田雅人