>>全ての画像を見る<<
同作は、スランプ中の脚本家・加藤(成田)が、人妻・惠子(前田)と、不思議なコンビニ「リソーマート」が入り口の“ちょっとした異世界”で出会い、恋に落ちる様を描くファンタステックかつノスタルジックな物語。ドラマ「時効警察」シリーズ(テレビ朝日系)や映画『大怪獣のあとしまつ』(2022年)の三木聡が監督・脚本を担当する。
本作で「リソーマート」のオーナーであり、前田の夫でもある南雲役を演じる六角精児に作品の見どころや、本作で共演した成田凌や前田敦子との撮影秘話などを聞いてきた。
ーー六角さんは映画『大怪獣のあとしまつ』や「時効警察」シリーズに続いての三木監督作品出演となります。オファーをもらった時はどんな気持ちだったのでしょう。
六角:三木さんの世界には独特な空気感がありますからね。三木さんの映像作品に出られるのは嬉しいなって素直に思いました。
ーー演じる南雲は役柄的に前田さんの夫役で、しかも束縛系のちょっと変わった人物です。南雲を演じるに当たって何か役作りのようなことはしました?
六角:いや。そういうことはしていないです。三木さんは、コンテをしっかりお作りになるし、役者に対してこれをやってほしいというのがはっきりしているタイプの監督だと思うんです。だから役者として過剰に役作りをしようとか、何かをしようという気持ちで臨むのではなく、監督の要求に自然に乗っかっていくスタイルでやっていこうという感じでした。南雲は結婚はしていても奥さんにあまり振り向いてもらえていないタイプの人間。そこに寂しさみたいなものがあるんじゃないかなというのを頭に置いて演技していました。
ーー南雲の人物像ですが、私生活の六角さんと共通項のようなものはありましたか。それとも真逆の人間像だったのでしょうか?
六角:結構自分と似ていると思いますよ。南雲は別世界の人だというのもありますけど、人はそばに全く誰もいないと寂しいものだし、身近な家族である奥さんから相手にされないとなおさら。そこへ誰かがきて奥さんともし何かがあれば嫉妬もするだろうし、それが暴力や狂気に変わっていくかどうかは別として、僕も南雲という人も気持ちが動く点では同じだと思います。そこは南雲と同じというところから人物像を作り上げていった方が自然なのかなと思ってやりました。
ーー特殊なキャラクターをどう印象づけるかということも考えての演技だったのでしょうか?
六角:変に印象深くしようとは考えませんでした。若い頃はそういう考えもありましたけど、最近はなくなったてきたんです。でも、結果的に印象深いキャラクターにはなったと思いますし、狙わずそこにいけたのならそれでいいなと。
ーー現場では妻役である前田さんとどんなコミュニケーションを取っていたのでしょうか?
六角:劇中の役の距離感を考えて、撮影が終わったらひゅっと帰ってしまったりする役者さんもいらっしゃるのかもしれませんけど、前田さんとは撮影のカットとカットの間は現場に一緒にいて、普通に話をしていました。成田さんも含めてお二人とは、歳は随分離れていますけど、気さくに話をしてくれて、距離を縮めるために何かをしないといけないとか、そういうまどろっこしいこともなかったです。今の若い人たちはそういう気遣いがきちんとしていていいですよね。昔の僕ならできなかっただろうなって思います。
ーー昔の女優さんはなかなか話しかけにくい雰囲気があったんですか?
六角:どうだろう。僕はあったかな(笑)。若い頃は先輩の女優さんたちにすぐには話しかけられなかったし、向こうから話しかけてもらった記憶もない。
ーー本作では嫌われている旦那さん役でもあるわけで、前田さんとの現場での距離感は影響ありましたか?
六角:好かれている旦那さん役より嫌われている旦那さん役の方がやりやすいという部分はあったかもしれないです。もしも仲のいい夫婦という設定なら、一体どういう夫婦でなぜ仲がいいのかっていうことを演じる上できちんと構築しないといけない。でも、向こうは拒絶していて、嫌われているからこそ成田凌さんの方にいってしまう。そういうストーリーの作品なので、自分としては「おい、どうしてなんだよ」って、寂しさみたいなものを追い求める感じを持ってやればいいわけですから。
ーー不倫されてしまう男の心境をどう考えますか?
六角:そういうことがあったとしたら悔しいし悲しいでしょうね。怒りという感情も生まれるかもしれないけど、少なくとも自分に愛情がある限りは、一番は悲しみや寂しさでしょうね。だからこそ余計相手を傷つけてやろうという気持ちにもなるんでしょう。
ーー南雲は相手を束縛します。そういう行為は理解できますか?
六角:自分はそういう恋愛はしてきていませんが、感じはわかります。何時から何時までどこにいるのかということを電話をして確かめたりする人って確かにいるし、夫婦でもそういう関係の人がいますよね。でも、僕はいい加減だから、そういう風にはならないです。それに反対の立場なら自分が苦しくなりますから。自分が束縛されたくないなら、相手にそれを求めるのはちょっとおかしいと思います。でも、実際はそういう人がいて、人としてそういう感情が生まれる場合もあるということはわかっています。
ーースマホがある時代、ない時代で束縛の仕方も変わります。
六角:スマホは人を束縛しますよ(笑)。束縛する道具があるからそうする人も増えていると思うんです。昔は家を出たらそれで終わりだったけど、今はそういうわけにはいきませんから。GPSも付いていますし。とんでもない時代です。スマホは便利だけど、便利がゆえに人を馬鹿にしてしまう道具ですよ。どこかに行かなくても、買い物であろうと調べ物であろうとなんでもその場でできてしまう。これ一台で楽しめるわけですものね。外に出ることを少なくしてしまうし(笑)。すごい時代になったなと思います。
ーー六角さんは現在60歳。俳優としての今後の展望について教えてください
六角:ひとつひとつの仕事は、真剣に考えてやってはいますけど、その結果や評価は、どういう風に捉えられてもいいな、と思っています。自分がこうしようと一所懸命に考えてやったことに対して、昔だったら何か結果が欲しいと思っていたこともありましたけど、今はないです。やれることをやって、その先のことはいいっていう感情です。でも、やる気が無くなったというわけではないんです。新しいことをやりたいという気持ちはちゃんとあります。何かチャンスがあるんだったら、60過ぎたって挑戦したいし、できると思う。むしろ執着がなくなったぶん、新しいことがやりやすくなったと思っています。
ーー今、役者業以外で興味のあることはなんですか?
六角:鉄道とお酒とギャンブルじゃない。やっぱり。
ーーギャンブルは相変わらず好きなんですか?
六角:好き。まあ、ギャンブルといっても昔のようにお金をたくさん賭けることもないし……。ギャンブルというか、ギャンブルっぽいものだね。それに魅力を今でも感じているということかな。昔から一攫千金を求めて長いことやってきたけど、それは意味がないということもわかってきたからね。大勝ちで大金を得た人間は得た人間で、ろくな目に合わないことも知っているし。ギャンブルで人生を狂わせた人もたくさん見てきたから、一攫千金を狙うようなことはないです。楽しく遊べればいいんだけど、それはもう「ギャンブル」ではなくて、ギャンブルっぽいものなんです。
ーーこれだけ長きに渡って俳優業を続けられるとは若い頃に想像できましたか?
六角:思ってもいなかった。そもそもずっと続けて行こうなんて考えていなかった。いつまでやろうとか、いつまでやれるとか、芝居だけでやっていこうとか、そういうことすら考えていなかったんです。その場その場の感覚でずっとやってきた。これからどうなってしまうんだろうって思ったことはありましたけどね。でも、ここまでやって来れたのは、運じゃない。縁ですよ。そういうものがある人が続けられるんだと思います。自分がどこまでと考えてやれるもんじゃないし、今後もそんな感じで続けていければいいなと思っています。
(インタビュー・写真:名鹿祥史)
『コンビニエンス・ストーリー』
監督・脚本/三木聡 企画/マーク・シリング
出演/成田凌、前田敦子、片山友希、岩松了、渋川清彦、ふせえり、松浦祐也、BIGZAM、藤間爽子、小田ゆりえ、影山徹、シャララジマ、六角精児
配給/東映ビデオ
8月5日(金)より全国公開