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ーー本作では吉岡一門との対決ということで、宮本武蔵を演じています。武蔵を題材にしようと思った経緯を教えてください。
坂口:一番分かりやすい、一番有名なのが武蔵っていうことで、武蔵をテーマにしようって思ったんです。あと武蔵って俺の中ですごく人間っぽい人というイメージがあるんです。戦う時に臆病な部分を見せたり、そういう人間っぽさのある魅力を考えても、やっぱり武蔵がいいなって。型にとらわれないところも、アクションの型にとらわれたくない自分と重なる部分があるなって。
ーー宮本武蔵はいろんな小説や映画、舞台の題材になっています。坂口さんは武蔵のイメージをどんなところから作り上げていったんですか。
坂口:いろんな人が武蔵を書いている。それをだいたい読んだりして、例えば佐々木小次郎との戦いでは武蔵は遅刻してくる。あれは意図的にやっている。侍は堂々とやるものなのに、わざわざ遅刻していく。侍としては失格です。そうなるとどう考えても武士道や侍道では片付けられないものを武蔵に感じたりします。吉岡一門との戦いではどうせ寝れないんだったらずっと木の上にいて待っていようとか。正面から堂々と行かない武蔵の人間っぽさを見て、普通に強い人という感じではなかったんじゃないかって。そういう感じでイメージを膨らませていったんです。
ーー本作の77分に及ぶ、ワンシーン、ワンカットの殺陣のクライマックスシーンはすごくインパクトがあります。撮影中、こんなシーンが本当にやれると思って挑んでいましたか?撮影の裏話、エピソードがあれば教えてください。
坂口:やれると思っていました。現場に入る前に、ずっと一人でいたんですけど、最後にうちのメンバーに、「一緒にトレーニングしてきたんだから悪いんだけど本当に殺しにきてくれ」って言ったんです。「嘘が入ってしまうと、絶対に『狂武蔵』にならない。本当に脳天突いてくれ、面もやってくれ、のどもいい、腕の骨が折れて逆に曲がっていても、俺が片腕で振る間は戦うんだぞ。脚が折れても目がつぶれても、俺が刀を振るっている間は戦うんだぞ、絶対にこい。もしこないなら俺から脳天を打つ」って鼓舞していたんです。そうしたら「スタート!」の合図とともにみんなめちゃくちゃかかってきて。俺は心の中で、「気持ちを上げるために言ったのに、何バカバカ本気できているんだ」って。それで指の骨がまず折れて、体力がゼロになった。やりきる自信はあったんですけど、そんなにバカバカくるとは思っていなかったので、開始5分で「あれ、やれないかも」って思ったのも事実です(笑)
ーー啖呵を切った手前、坂口さんとしてももう後には引けない状態になったんですね。
坂口:自分の中の計算ではやれるとは思っていたけど、まさかこんなに、5分で体力ゼロになるとは思わなかったんです。本当の合戦みたいでしたよ。今のこの令和の時代に合戦に出たことがあるのは俺しかいないでしょうね(笑)。だってこんなこともう誰もしないでしょうし。真剣じゃないけど、撮影用の剣だって十分死にますし、それでリアルに77分戦えって、イカれている俺くらいしかやろうとしないでしょう。合戦に出たことのある俺だからこそ、侍の気持ちも多分、誰よりも分かるようになったと思います。後半の20分は力で刀を持つのをやめて、握る力がなくなったところで、いなすだけで相手を切れるってことにも気づけた。大変でしたけど、これで学んだことも多かったです。
ーー本作には山﨑賢人さんも出演しています。山﨑さんに対してはどんな印象を持っていますか。
坂口:熱い男です。77分のこのシーンを蘇らせるとなった時も、「少しでも手伝えることがあれば」っていうことで、華を添えてくれたんです。賢人が出るような映画じゃないことは百も承知ですけど、その熱い思いでやってくれたことに対してすごくうれしい気持ちです。感謝しています。
ーー坂口さんのアクションのスタイルはどこから来ているんですか。
坂口:ジャパンアクションクラブというところに最初入ったんですけど、入って半年で自分が求めるアクションはもっとリアルなものがいいなって思って、そこをやめて。アクションの基本の型は習っていたんで、あとは自分で自分の思うスタイルを進化させていこうって。それがスタートです。
ーーアクションを極めていく中で、影響されたものはありましたか。
坂口:格闘技をよく見ていました。生々しい、これぞ格闘技というものから、プロレスまでいろいろなものを見て、アクションももっといろんな形があっていいんじゃないかなって。作品的には黒澤明監督の『七人の侍』とか、若山富三郎さんの『子連れ狼』とかも見ていました。リアルでかっこいいなって。
ーー昔の時代劇からすると、今の日本で作られる時代劇はずいぶんスタイルも変わってきました。それについてはどうお考えですか。
坂口:それはそれでいいんじゃないかなって思っています。いろんなスタイルやジャンルがあったほうが面白いんだし。自分に対する捉え方も、リアリズムの侍ものを追求している人という捉え方をしてもらって全然いいと思っているんです。今の時代劇のスタイルが変わったからといって、それに喝を入れようなんて気持ちはないです。
ーー今後役者としてはどのような活動をしていきたいと思っているのですか。
坂口:今後は侍映画の文化を残したいので、自分は命をかけてそれに取り組んでいきたいと思っています。
ーー最近YouTubeチャンネル「狂武蔵たくちゃんねる」を開設してアクションのノウハウなどを解説していらっしゃるのも、そういう流れからなのでしょうか。
坂口:リアリズムのアクション道をもっと知って、好きになっていって。そういう思いでやっているんです。今登録者数が22万人以上。登録者は僕にとって宝物のような存在です。今年50万、来年100万というように、どんどん増えていけばいいなと思っています。アクションは世界の共通語。言葉の壁を乗り越えられるものなので、最後は世界を舞台に登録者数1000万人とか、そういう形になっていけばいいなと思っています。
(取材・文:名鹿祥史)
『狂武蔵』
■出演 : TAK∴(坂口拓) 山﨑賢人 斎藤洋介 樋浦勉
■監督 : 下村勇二
■原案協力 : 園子温
2020年/91分/16:9/5.1ch
■企画・制作 : WiiBER U’DEN FLAME WORKS 株式会社アーティット
■配給 : アルバトロス・フィルム
©2020 CRAZY SAMURAI MUSASHI Film Partners
8月21日(金) 新宿武蔵野館にてレイトショーほか全国公開