それは私の誕生日パーティーの場面でした。
私は大きな丸いバースデーケーキの前に座っていて、その周りを沢山の人が取り囲んでいました。
パーティーって楽しいイメージがあるでしょう?
だけど皆、なぜか喪服を着ていて暗いんです。まるでお葬式みたいで。
ケーキにはちょうど年の数、18本の蝋燭に火が灯っていました。
私は蝋燭の炎を一本一本、順番に吹き消して行きました。
やがて最後の1本だけが残った時。鋭い視線を感じました。
喪服の人々の中に黒いフードを目深く被った男がいました。青く光る目で私をじっと見つめているんです。
死神…。
男を見てそう感じました。
〈今夜はお前の誕生日にして命日…〉
耳元で不気味な声が聞こえました。
そこでふと目が覚めました。
異様な気配を感じ足元を見ると、夢の中の男が立っていました。
それから私は死神の男に連れられて、今までの人生でお世話になった人々のもとへ最後のお別れの挨拶に回りました。
友人、クラスメイト、近所の人、学校の先生、親戚の人達、初恋の彼の所まで…。
だけど、挨拶に行っても皆ぐっすり眠って気づかなかったり、稀に気づいても無言で悲しそうな顔をしているぐらいでした。
ああ、このまま死神に連れていかれるんだ。
私はすっかり観念していました。
やがて母の枕元に行きました。
私は寝ている母の耳元で囁きました。
「お母さん、今までありがとう。私は死ぬことになりました。さようなら…」
その時、突然眠っていた母がむくっと起き上って
「なーに、馬鹿な事いってんのよ〜。あんたが死ぬわけないじゃない。あははは〜!」
と、明るく大笑いしたんです。
私が呆気に取られていると、傍らにいた死神は白い煙と共にぼわんと消えてしまいました。
それと同時に地震のような衝撃を感じ目の前が暗転しました。
次に目が覚めた時は病院のベッドの上でした。
夜中になぜか階段から転げ落ちたらしく、そのまま意識不明で救急車に運ばれたのでした。
あの時、母が笑い飛ばしてくれなかったら私は本当に死神に連れて行かれたかもしれません…。
(怪談作家 呪淋陀(じゅりんだ)山口敏太郎事務所)
参照 山口敏太郎公式ブログ「妖怪王」
http://blog.goo.ne.jp/youkaiou