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本好きのリビドー(249)

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提供:週刊実話

◎快楽の1冊
『影の日本史にせまる―西行から芭蕉へ』 嵐山光三郎+磯田道史 平凡社 1400円(本体価格)

★タブーを無視した日本史談義

 和歌や連歌、俳諧といえばひたすら花鳥風月を素材に人情を優雅に詠むことのみ、のイメージかというと然にあらず。信長への叛逆の意を託した発句といわれる光秀の“ときは今あめが下しる五月哉”が史上最も劇的に象徴するように、時と場合により鋭い緊張を孕んだ政治の現場や生臭い人間関係図の中で暗号や命令、重要なメッセージ、あるいはプロパガンダとしての役割まで果たす火花散るツールだったという。

 「山家集」で名高い平安時代の大歌人・西行法師の西行とは“西方浄土(つまりあの世)に行く人”の意味で、実は死神めいた怖ろしい響きを持つ名前なのだと知ったのは嵐山光三郎氏の著書から。俗名を佐藤義清といった彼の若き日は北面の武士と呼ばれる院(上皇)の警護役で、おない年の同僚がのちの平清盛だった。現在に例えれば特殊部隊のメンバー並みの戦闘能力を持っていた彼は出家していたからこそ、皇室が二つに割れた保元の乱をはじめ、その後に打ち続く源平抗争の戦乱に巻き込まれぬまま漂泊と詠嘆に生きた…とされるが果たして本当にそれだけか。東北への旅などは奥州藤原氏への諜報活動の側面も帯びていたのではないか。

 近年、通説に次々と新たな光を浴びせて話題の歴史家磯田氏と、作家の嵐山氏とによる限りなく実証主義に基づいた推理合戦の趣の本書。「奥の細道」を芭蕉と共にたどった曾良が諸国巡検使の配下だったのに触れて、半ばは公儀隠密に近い情報収集も兼ねた旅と指摘するくだりは思わず身を乗り出す面白さで、生きて帰れぬ可能性ゆえに出立の句が“行春や鳥啼き魚の目は泪”だとは知らなんだ。ちなみにこの「魚」はあの泳ぐ魚を指すのではなく…いやここまでにしておこう。あとはご一読。
(居島一平/芸人)

【昇天の1冊】
 特殊清掃という仕事をご存じだろうか。死者が出た部屋の後始末を行う清掃業のことだ。死者とは、主に孤独死という悲しい結末を迎えた高齢者やいわゆるニートたち。そして、そんな人が年間3万人にも及ぶという。

 『超孤独死社会 特殊清掃の現場をたどる』(毎日新聞出版/1600円+税)は、日本が抱えるそうした深刻な問題に密着した壮絶なノンフィクション作品。

 孤独死の現場は悲惨だ。理由は不明だが尿の入ったペットボトルがなぜか大量に放置され、壁やドアに血のような黒カビがべっとりことこびりつき、使用済みオムツに無数の虫が群がる。

 その中に、遺体と家族との写真など思い出の品が埋もれている。遺体以外は清掃人によってゴミとして処分される。遺族はお構いなしというケースも少なくない。長時間発見されなかったため、遺体が腐敗していることも…。

 故人が誰にも看取られずひっそりと生きていた理由はさまざま。虐待などが原因で親子関係を断たれた者、パワハラが原因で会社を退社した中高年、失恋による痛手から引きこもった女性。病死もあるが、自殺もある。目を背けたくなる現場に直面した著者。だが他人事とは思えないという思いを強くする。そう、これは誰もが陥る危険をはらんだ人生の結末なのである。

 著者は気鋭のノンフィクションライター・菅野久美子さん。新元号・令和を迎えた日本において、孤独死の問題に“救済”はあるのか、と問いかけてくる。

(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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