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やくみつるの「シネマ小言主義」 食の思い出は、_人をセンチにさせる『最初の晩餐』

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提供:週刊実話

 日本の映画の大テーマの一つ、「家族って何だ?」に真っ正面から向き合ったこの映画、いい味出してます。

 永瀬正敏が演ずる父が亡くなり、通夜ぶるまいの席から話は始まりますが、「こんな時でも人間って食うんだな」という台詞があります。実際、自分もそう思います。食べないと何か間が持たないんですよね。

 その料理を母・アキコが自分で作ると言い出し、最初に運ばれてきたのが目玉焼き。あまりに場にそぐわないので親戚連中はざわつきますが、染谷将太演じる二男の驎太郎が「これ、親父が初めて作った料理です」と気付くんですね。

 こうして、次々に出てくる食にまつわる回想エピソードが綴られ、両親はそれぞれ連れ子のある再婚同士、いわば寄せ集め家族であることが分かってきます。食を軸にするのは、伊丹映画の『タンポポ』ヘのオマージュでしょうか。

 元の家を飛び出してきた母アキコ役の斉藤由貴がちょっとリアルすぎやしないかと初めは思いました。実生活での不倫騒動が記憶に新しいですからね。ただ、話が進むにつれ、この情念の赴くまま行動する母親はまさに斉藤由貴こそ適役と、妙に納得しました。若い頃も、孫を抱くおばあになっても「女」なのは、彼女の真骨頂です。

 さらに長女役の戸田恵梨香。NHKの連ドラでは明るい主人公を演じていますが、本作では底意地の悪い中年女を演じ、ふてくされた表情などが実にうまい。いずれ小津映画における杉村春子のような存在になるんじゃないかと思いますね。

 永瀬正敏は回想シーンにしか出てこないんですが、職業は登山家。何もそんな撮影が大変な仕事に設定しなくてもと思いましたが、すべてを背負って一歩ずつ歩くというのが、事情のある新しい家族を背負い込むのとオーバーラッピングしているんだと分かるにつれ、これもすべて必然なんだと納得。

 血が繋がっていようといまいと「家族」を突き詰めると謎すぎる。もしかしたら、同じ釜の飯を食べ続けた記憶でのみ、繋がれるものかもしれません。思えば、かみさんと出会って一緒に食べた初ランチ、亡くなったおかんが最後に作ってくれたごはん、父親との不意の外食…不思議と覚えてます。母と最後に食べた外食は、都内の隠れ家的な天ぷら屋でしたが、ここはもう行こうと思わないですね。心の蓋が開きそうで辛い。

 食の思い出は、人を妙にセンチにさせます。だから、通夜ぶるまいで故人ゆかりの食を食べるのは、カピカピの寿司なんかよりずっといいかもしれませんね。

画像提供元:(c)2019「最初の晩餐」製作委員会

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■最初の晩餐
監督・脚本・編集/常盤司郎 出演/染谷将太、戸田恵梨香、窪塚洋介、斉藤由貴、永瀬正敏ほか 配給/KADOKAWA 11月1日(金)新宿ピカデリーほか全国ロードショー。
■父の日登志(永瀬正敏)の訃報を受けて、カメラマンの東麟太郎は葬儀のために帰郷。通夜の準備を進める中、母親のアキコ(斉藤由貴)が突然、通夜ぶるまいの弁当をキャンセルし、自分で料理を作ると言い出す。目玉焼きを筆頭に、日登志とゆかりのある料理が出される。母が作る数々の手料理を食べていく中、家族のさまざまな日々が思い出されていく。

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やくみつる:漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。『情報ライブ ミヤネ屋」(日本テレビ系)、『みんなのニュース』(フジテレビ系)レギュラー出演中。

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