そんな目論見で訪れた伊豆大島で、まずは夜釣りに興じ、イサキやメイチダイ、アカヒメジ、イトフエフキといった伊豆諸島らしい魚を仲間とともに確保。大物は釣れずとも、“永遠の初心者”を自称するワタクシとしては、非常に満足な夏の夜でありました。
さて話は変わりますが、釣り人の間でよく使われる言葉に“マヅメ”というのがあります。これは、夜明けや夕暮れ前後の薄暗い時間帯を指す言葉であり、“朝マヅメ”“夕マヅメ”などと使われます。
この時間帯は、魚の活性が上がるチャンスタイムとされ、そこに狙いを絞る釣り人も、珍しくありません。
となれば、この時間帯は絶対外せないのですが、朝に弱く寝坊癖が治らないワタクシにとって、朝マヅメを狙って出かけよう! などということは、まさに「絵に描いた餅」も同然…。
しかし、夜通しで釣りをしていれば話は別。釣り場に居残ってさえいれば、朝マヅメも存分に釣りを楽しめるワケです。まさに「明けない夜はない」的なヤツですな。本来使われるのとは、だいぶ意味が違いますが…。
★和製疑似餌に突然のガツン!
東の空がうっすらと明るくなり、辺りがなんとなく見渡せるようになった頃合で、オモリの先に結んでいた仕掛けを組み替えます。新たに結ぶのは「弓角(ゆみづの)」と呼ばれるハリが付いた5センチほどのプラスティック片。
「こんなので魚が釣れるの?」と誰もが思ってしまう簡素な疑似餌ですが、これがイナダ(ブリの若魚)やカンパチ、サバやサワラといった回遊魚には効果絶大。
“弓角”の名のとおり、元々は獣の角を削って作られていたとされる歴史のある和製漁具で、現在もカツオの引き縄漁で大活躍。本職の漁師が太鼓判を押すお墨付きの漁具なんですね。
それだけの実績がありながら、使い方が簡単なのもいいところ。遠くへ投げ、あとは水面を逃げ惑う小魚をイメージしながら高速で巻き寄せるだけ。
基本的には、これの繰り返しで魚が掛かるという、“永遠の初心者”を自称するワタクシには実にありがたい存在です。
ということで、朝ぼらけの離島桟橋にて、ひたすら弓角を投げては巻く、この時期ならではの釣りを開始します。回遊魚は、朝マヅメが最高のチャンスタイムですから、竿を握る手に力が入ります。んが、この日の状況は今ひとつ。
いい日には、イナダやサバが小魚を水面に追い詰めて補食する“ナブラ”と呼ばれる現象があちこちで発生し、その近くを通せば即ヒット! なんてこともあるのですが…、な〜んにも気配がありません。
しかし、ココは離島桟橋であり、朝のチャンスタイム。
「いないワケはない!」
そう信じてひたすら投げ続けます。“折れない心”“信じる気持ち”が大事なのは釣りにおいて最も重要な要素ですから。まぁ精神論でしかありませんが…。
「ガツンッ!」
無心で投げては巻くのを繰り返すマシンになりかけていた頃、唐突な衝撃の後に「グングンッ!」と激しい抵抗感が続きました。このように前触れなくいきなり掛かるのが、この釣りの魅力。
「いつ掛かるかな♪」
そんなドキドキ感があるから、気持ちが折れないで投げ続けられるんですな。
掛かった魚は、サバやソウダガツオではないようで、彼らのように左右に走り回る様子はありません。活きのよい引きと、やがて明らかになる魚の予想を楽しみながら巻いてくると、水面下に白い魚体が見えてきました。
掛かっていたのは“ショッコ”と呼ばれる30センチほどのカンパチの若魚でした。投げ続けてようやく釣れた獲物に喜びもひとしお、すぐに血抜きを施し、氷の詰まったクーラーボックスへ仕舞いました。
★艶やかで旨い当然の昇天
今回釣れたカンパチは若魚ですから、脂乗りという点では市場に出回っている養殖物や3㎏を超えるアダルトな天然物とは比較になりません。そこで、伊豆諸島の郷土料理である「島寿司」にていただくことにします。
「島寿司」とは、ネタとなる白身魚を醤油に漬け込んで作るものであり、見た目がベッコウ色になることから“ベッコウ寿司”とも呼ばれます。ということは、丁寧に表現すると…“オベコ寿司”となりますな。
伊豆大島名産の青唐辛子醤油に軽く漬け込んで、甘めのシャリに和辛子を付け、漬けたカンパチをのせたら“オベコ寿司”が完成。艶やかでテラテラと濡れて光る寿司は実に美味しそう
ピリッと辛い青唐辛子醤油の後に広がる身の旨味、それに絡む甘めのシャリが実に絶妙。時折、テラテラと光る極上の“オベコ”を楽しみつつ、島焼酎を嘗めて気がつけば昇天! 実にいい“オベコ”でした。あくまで寿司のお話ですよ。
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三橋雅彦(みつはしまさひこ)子供の頃から釣り好きで“釣り一筋”の青春時代をすごす。当然の如く魚関係の仕事に就き、海釣り専門誌の常連筆者も務めたほどの釣りisマイライフな人。好色。