肺の病気と聞いて真っ先に思い浮かべるのが、世界的に死亡率が高く、今も増え続ける『肺がん』だろう。だが、「肺を針で突かれたような痛さと息苦しさ」に見舞われる肺気胸も忘れてはいけない。呼吸不全や肺炎など、合併症を引き起こす重大疾患であることに違いはないからだ。
この肺気胸は、日本癌学会のガイドラインによると20代、30代の若い男性に多く、体型的には痩せて胸の薄い若者がなりやすい、とされる。
症状は肺を包む肺胸膜(はいきょうまく)の表面に薄い空気の袋ができる。それを医学的には気腫性のう胞といい、一般にはブラ、またはブラフと呼ばれる。まるでカエルの卵のようなものだが、破裂すると肺に穴が開き、そこから空気が漏れ出てしまう。
漏れ出た空気が胸腔内に溜まると、肺や心臓を圧迫し、痛みや呼吸困難などを引き起こす要因となり、患者にとっては耐えがたい苦しみとなる。
では、どのような時に発症するのか。一般的には激しい運動や咳、あるいは気圧が低くなる飛行機の搭乗、スカイダイビングなどの理由が挙げられるが、専門医は「どれも決め手はない。安静にしていたり、就寝中にも発病する」という。
東京総合クリニック・久富茂樹院長によると、気胸の種類は大きく分けると次の2つがあるという。
その一つは「自然気胸」。前述したブラと呼ばれる気腫性のう胞という袋が破裂し、肺側胸膜に穴が開くことで発症する。胸の痛みと息苦しさ、呼吸困難が突然起こり、年齢的には、青年期といわれる13歳から35歳くらいの間に発症することが多いとされる。
それも背が高く、痩せ型の男性に多いと言われ、その数は女性の7倍から10倍という。症状としては、穴が開くことで漏れた空気によって肺が圧迫され、肺そのものが縮んでしまい、その後、十分に膨らむことができなくなる。
そして漏れた空気の量が多いほど、もう片方の肺が反対側へ強く圧迫され、心臓や血管も押しつけられてしまうことで胸の苦痛、咳き込みなどの症状が出る。別名を「緊張性気胸」といい、症状的にはかなり危険な状態。とくに再発を繰り返す人は、この時点で医療機関の正しい治療を受ける必要があると専門医は言う。
袋状のブラが肺の表面(肺の上方・尖部)になぜできるかについては、体質的なもの、大気汚染の関係、成長期で痩せ型だったからとか諸説ある。しかしこれもまだ、はっきりした因果関係はわかっていない。
もう一種の「外傷性気胸」は、交通事故などのケガで折れた肋骨が胸に突き刺さり、穴が開いてしまう症状だ。また気管内挿管などの検査や治療の際に、胸膜に穴を開けてしまうなど、何らかの外部要因で引き起こされる疾患を呼ぶ。