ごく普通のサラリーマン、佐藤を演じるのは三浦春馬。偶然出会って後に恋人となる紗季に多部未華子。この2人の10年越しの恋を描くのですが、「出会い」に焦点が当てられ、10年間のあれこれは一切描かれません。いきなり10年後に話が飛ぶのが、かえって面白い構成と言えます。
映画の手法としては、いたってオーソドックス。主人公の他に、友人や同僚の人生もサイドストーリーとして並走しますが、その絡みの「力の抜け加減」がいい感じです。と言うより、出会いそのものよりも、「あの時、あの場所で出会ってしまった奇跡」がテーマです。
自分を振り返っても、恋人や結婚、仕事、住む場所でさえ、意外と少ない選択肢から、なりゆきで選んだ結果です。カミさんとの出会いも、かつてある雑誌に「自分に関心を持った方、お手紙をください」と一言、ほんの気まぐれで書いてしまったことがきっかけ。タイミングがちょっとズレていたら、出会いようもなかったですから、考えてみれば不思議なもんです。
さしてドラマチックな人生なんて送っていないですが、それも何気ないけど「奇跡的」な偶然のおかげで成立しているということに、あらためて気付かされました。
キャスティングもいいですね。三浦春馬さんとは、昔一度、バラエティー番組でご一緒したことがあります。当時はちょっと中性的な、線の細い人という印象でしたが、年を重ねて骨太な存在感を増していますね。多部未華子の演技も、相変わらず達者です。
さて、この映画は原作者である伊坂幸太郎も住む仙台市で全編、撮影されています。自分も仙台市には定期的に通っていた時期がありました。母が仙台市の施設に一時入所していた関係で毎月通い、そのたびに散策。なので、駅前の陸橋も懐かしく想い出されます。
2人のきっかけは、ストリートミュージシャンの歌声に惹かれて立ち止まったことなんですが、その他の通行人は一瞥もくれずに2人の間を突っ切ります。自分には、それはできない。何か気まずくて、後ろを通るか、迂回しますよ。
アイネクライネ〜という長いタイトルは、「小さな夜の音楽」という意味らしい。日々の小さなことに縁がつまっている、そんなメッセージを感じた映画でした。
画像提供元:(c)2019「アイネクライネナハトムジーク」製作委員会
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■アイネクライネナハトムジーク
監督/今泉力哉 原作/伊坂幸太郎 主題歌/斉藤和義 出演/三浦春馬、多部未華子、矢本悠馬、森絵梨佳、恒松祐里、萩原利久、貫地谷しほり、原田泰造 配給/ギャガ 9月20日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー。
■仙台駅前で街頭アンケートを集めていた会社員の佐藤(三浦春馬)は、快く応じてくれた女性・紗季(多部未華子)と出会い、付き合うようになる。その10年後、佐藤は意を決して紗季にプロポーズするが、果たして2人の出会いは、幸せな結末にたどり着けるのか。思いがけない絆で佐藤とつながっていく人々が、愛と勇気と幸福感に満ちた奇跡を呼び起こす。
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やくみつる:漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。『情報ライブ ミヤネ屋」(日本テレビ系)、『みんなのニュース』(フジテレビ系)レギュラー出演中。