「薄毛の人は男性ホルモンが多い」とよくいわれるが、これにはきちんとした理由がある。自身も薄毛の改善に成功した東京医科歯科大学名誉教授の藤田紘一郎先生は、「ジヒドロテストステロン(DHT)」という男性ホルモンが、薄毛に大きな影響を及ぼすと説く。
「髪の毛が生え変わるとき、頭皮の毛母細胞は毛細血管から栄養をもらい、新たな髪の毛を成長させます。しかし、DHTが増えると髪の毛のサイクルが短くなります。そうなると頭頂部や額の生え際が後退していきますが、こうしたタイプの薄毛を『男性型脱毛症』(AGA)といいます。AGAを防ぐには、DHTが少ないほうがいいのです」(藤田先生)
しかし、DHTは「テストステロン」という男性ホルモンの変換によっても増えていくので、一筋縄ではいかない。
「テストステロンの分泌を抑えれば、『脱毛ホルモン』とも呼ばれるDHTは作られなくなります。しかし、テストステロンは、やる気や行動力、快活といった男性らしいエネルギーを生み出す源でもあるので、たとえ薄毛になってしまったとしても、テストステロンを枯らしてはいけないのです」(藤田先生)
男性ホルモンの減少は更年期障害を起こす恐れもあるので、「枯らさず、増やさず」のバランスが、非常に大事なのだ。
★亜鉛の摂取が薄毛の改善に
テストステロンそのものに薄毛にする作用はないが、DHTに変換されると薄毛になりやすくなる。そのため、テストステロンをDHTに変換させないことが、薄毛対策のポイントとなる。
テストステロンは、「5αリダクターゼ」という酵素の働きでDHTに変換される。したがって、DHTの産生を防いでAGAを改善したいのであれば、この5αリダクターゼの働きと量を抑制する必要がある。薬の力を借りて抑制することもできるが、食べ物に含まれる亜鉛にも、5αリダクターゼを抑制する効果がある。
「亜鉛は人体に約2g含まれている必須ミネラルの1つです。成人男性は10mg、成人女性は8mgの摂取(1日あたり)が推奨されていますが、実際の摂取量のデータを見ると、日本人の多くは亜鉛不足と見受けられます」(藤田先生)
亜鉛は免疫力の向上や精子の形成などにも働くので、不足すると抜け毛が増えて髪の毛がやせるだけでなく、精力が落ちるなどの症状が現れる。ただし、不自然な摂取の仕方をすると過剰症を起こす恐れがあるので、毎日の食事から摂取するのが一番だ。
亜鉛は牡蠣やレバー、牛肉、卵、うなぎ、玄米、納豆、煮干しなどに多く含まれている。特に牡蠣には100gあたり18・3mg含まれているので、効率よく摂取できる。
★生活習慣も規則正しく
男性ホルモンは、男っぷりを上げるのに欠かせないので、なるべく減らしたくないもの。しかし、増えすぎると薄毛だけでなく健康にもリスクが生じるので、先述したように「枯らさず、増やさず」でバランスを取る必要がある。
亜鉛を豊富に含む食べ物を摂って5αリダクターゼを抑制し、糖質を制限して腸内細菌を元気にする食生活をすれば、薄毛の改善に近づく。さらに良質な睡眠や入浴、運動などを心がければ、男性ホルモンを増やして男っぷりも上げられる。
「性ホルモンをバランスよく増やすには、運動が大事です。男性の場合は生殖器だけでなく筋肉でも性ホルモンが作られるので、筋肉量を増やすのも男性ホルモンの分泌増につながります」(藤田先生)
ただし、激しい運動は活性酸素(体の細胞をさびさせ、劣化させる作用がある)の発生量を増やしてしまうので、少し物足りなさが残るぐらいの程々な運動がお勧めだ。
また、男性ホルモンを長期間投与したときに男性機能が回復しただけでなく、睡眠の質も改善したという研究報告がある。男性ホルモンは睡眠中に増えるので、工夫をして睡眠の質を高めてみよう。
起床後は太陽の光を浴びることで、睡眠ホルモンであるメラトニンの働きが活性化されて、夜の寝つきがよくなる。また、入浴によって体温が上昇し、風呂から上がると熱が放散されて体温が急激に下がるが、この仕組みが良質な眠気を引き寄せるので、入浴は就寝1時間前に済ませておこう。
他にも、睡眠は豆電球クラスの明かりでも阻害されることがあるので、可能ならば真っ暗な環境で眠るのがベストだ。
★毛髪力を高める食べ物
毛髪力をよみがえらせるには、食べ物や飲み物が大事だが、藤田先生は良質のシリカ水や「フィトケミカル」を多く含む野菜や果物、ネバネバ食材、血を作る食材などを毎日摂ることをお勧めしている。
「シリカ(石英や水晶などの鉱物)には、コラーゲンの生成を助ける働きがあります。コラーゲンは皮ふ(頭皮)を形成するのに必要不可欠なたんぱく質なので、シリカ水を毎日1Lくらい飲むようにしましょう」(藤田先生)
また、フィトケミカルには強い抗酸化力があり、活性酸素を無毒化する働きがある。「色」「香り」「辛み」「苦み」のいずれか1つが強い野菜や果物に多く含まれているので、たくさん摂取するようにしよう。
フィトケミカルは加熱しても問題ないので、これからの季節はまとめて摂取できる鍋料理がお勧めだ。特に牡蠣鍋は、亜鉛とフィトケミカルをまとめて摂れるので、栄養が溶け出た煮汁までいただこう。
そして、東洋医学で「髪は腎の華」といわれるように、「腎」(生殖器系、ホルモン系、中軸神経系などを広く合わせた生命の源)と髪には密接な関係性がある。魚介類(イワシ、サバ、牡蠣など)や黒い食べ物(黒ゴマ、黒豆など)といった腎によい食べ物の他、腎を補う働きがあるとされるネバネバ食材(山芋、納豆、オクラなど)は、毎日欠かさず食べておきたい。
また、髪は「血」の一部分でもあるので、レバーや卵、うなぎ、貝類、プルーンといった血によい食べ物を摂って血流をよくして、髪に栄養が行き届くようにしよう。
◉藤田先生推奨発毛食のポイント
*発毛ミネラル・亜鉛の多い食材(牡蠣、レバー、牛肉、卵、うなぎ、玄米、納豆、煮干し、ゴマなど)を食べる。
*毎日、頭皮のコラーゲン生成を促す良質のシリカ水(ケイ素を含む水)を飲む。
*毎日、フィトケミカルの宝庫である色や味の濃い野菜(緑黄色野菜、ニラ、しょうが、ねぎ、シソ、黒ゴマ、黒豆、唐辛子など)、ネバネバ食材(山芋、納豆、オクラ、メカブなど)、血を作る食材(レバー、卵、うなぎ、貝類、プルーン、ぶどうなど)を食べる。
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監修/藤田紘一郎先生
東京医科歯科大学名誉教授。医学博士。専門の寄生虫学、熱帯医学、感染免疫学の権威で日本文化振興会社会文化功労賞などを受賞。『55歳のハゲた私が76歳でフサフサになった理由』(青萠堂)など腸内細菌の健康効果に関する著書多数。