しかし、放置すると目が自由に開かない運動障害を起こし、目の乾きなどの過敏症や抑うつなどの精神症状も加わる、深刻な病が隠されている場合もあるというから放っておけない。
一例を挙げよう。都内の自営業Fさん(60)は、『眼瞼痙攣』と診断されるまで20年近くかかった。いわゆる“目のピクピク”で悩み続け、大学病院を含め10カ所以上へ通院したが、病名は「ドライアイ」「重症筋無力症」「パーキンソン病」と次々変わった。
発症は30歳頃だった。初期症状は、「まぶしい感じ」や「目がしょぼしょぼする」「瞼の周りの筋肉がぴくぴくする」など。症状が進むと、瞼が常に下がってくる感じになり、思うように開かない。仕事にも支障が出て、一時休業状態に陥った。
『眼瞼痙攣』は、自分の意思とは関係なく筋肉に収縮が起こる病。専門医は、「症状の進行はそれほど速くないが、自然に治ることは少ない」と語る。
日本眼科学会によれば、40歳以降に発症しやすく、特に女性に多い傾向がる。患者数は少なくとも男女合わせて20万人以上で、脳の異常に原因がある一方、抗不安薬や睡眠剤の副作用で若い人に起こることも報告されている。しかし、まだ完全に解明されておらず、治療のほとんどは症状を抑える対症療法が中心だといわれる。
都内で坂本眼科クリニックを営む坂本正也院長はこう説明する。
「確かに難しい病気と言えます。症状が長期間にわたって治まらない場合、痙攣する場所によっては症状が似ている別の病気が隠れているケースがあります。それは運動障害やまぶしさ、目の乾きなどの感覚過敏症、抑うつなどの精神的な病気などです。痙攣が瞼の下側だけで目が閉じにくい程度なら問題ありませんが、上側、もしくは上下の痙攣の場合、『眼瞼痙攣』や『片側顔面痙攣』の可能性が高いため、放置するのは危険。目が開けられなくなり、当然、日常生活に支障を来すことになるので深刻です」
全国の患者らで作る『眼瞼・顔面けいれん友の会』の関係者は言う。
「適切な治療法が急がれるわけですが、まだ病気そのものが解明されていない現状だと、適切な診断や治療を受けられず、辛い経験をしている人は多い」
日本神経眼科学会では、こうした状況を踏まえ、受診者には問診のほか、瞼を速く開閉するテストなどを実施する診療指針を盛り込み、「最低10秒間、軽いまばたきを繰り返せなかったり、目の周囲の筋肉が勝手に動いたりすれば、『眼瞼痙攣』の疑いが強いと診断される」としている。