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★『資本論』の理解者がなぜファシズムに?
昭和3年、今から一世紀近く前に42歳の若さで没した高畠素之。『資本論』を独力で三度も翻訳したと聞けば普通、どうしてもゴリゴリの共産主義者か、筋金入りのマルクス研究に身を捧げた学者あたりを想像してしまいがちだが、この男、ひと味もふた味も違う。
産業革命以降の近代資本主義の構造を知るための、あくまで理論書として『資本論』を読み抜いた上で、同志社の神学部中退にして棄教者という異色の経歴から来る一貫して性悪説に立った人間観、その著作のタイトルを借りるなら『幻滅者の社会観』に基づき、彼がたどり着いたのは国家社会主義=ファシズムだった。やはり同志社大学神学部出身である著者は、高畠の展開する議論の現代に通じる先見性や尖鋭ぶり(スターリンが権力を握る以前のソ連を当時、既に帝国主義国家と見抜く等)を随所で評価しつつも、しかし、根本的な点で批判を加えるのだが、興味深いのはそうすればするほど、高畠自体の魅力ないし思想の吸引力が際立ってくる面白さだ。
大正期に開催された国際軍縮会議の本質を、経済合理性を重視する英米の御都合主義を平和愛好の美名で隠蔽したもの、と喝破する件に特に顕著だが、500頁に迫る本書中かなりの分量で引用紹介される高畠本人の文章をとくと一読をお薦めしたい。独特のリズミカルな調子に巧みな比喩、皮肉と遊びに満ちた文体が妙に癖になるはず。
実際、筆者もつられてネットで1冊(『英雄崇拝と看板心理』)購入してしまったほどだが、それはさておき、高畠が時代情勢からぬえ(=鵺。頭が猿で胴は狸、手足が虎で尻尾が蛇。転じて得体の知れなさを象徴)的存在たらざるを得なかったのに比べ、今の世の知識人は果たしてこれ如何?
_(居島一平/芸人)
【昇天の1冊】
男が弱い時代といわれる。若い連中によくいる「草食系」だけではない。中高年も弱っている。
だが、若者と中高年では「弱い原因」が異なる。前者は気持ちの弱さ、後者は肉体、具体的にはEDなど性機能障害、男性更年期、前立腺肥大などの症状が原因だ。つまり中高年の場合は「病気」である。『働く男のクリニック』(現代書林/1300円+税)は、その処方箋となる1冊。
中でも男性更年期は、少しずつ世間に浸透してきてはいるものの、いまだに実態が理解されていない。中高年特有の倦怠感や勃起不全などの症状を伴い、ケースによってはうつ病とも診断される。だが、現在では男性ホルモンを増やす療法で治療の道が開けている。簡単な筋トレを行うだけで改善に向かう場合もあるという。
また、意外に見すごされがちだが尿に関するトラブルも大問題だ。頻尿、尿漏れ、残尿感、尿は出るが勢いがない、色がいつもと違う…思いあたるフシがある読者諸兄も多いだろう。これらは前立腺肥大の危険信号だとか。たかが小便とあなどってはいけないらしい。
本書には、聞きなれない「QOL」という言葉が登場する。クオリティ・オブ・ライフ=生活の質のこと。男性更年期や頻尿、EDなどが男の暮らしの質を落とし、ひいては人生そのものが楽しくないという悪循環を招くというわけだ。
男の寿命が延び、これからの人生が長い今こそ読んでおきたい。著者は泌尿器科専門医の北村健氏。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)
【話題の1冊】著者インタビュー 藤田孝典
中高年引きこもり―社会問題を背負わされた人たち― 扶桑社新書 900円(本体価格)
★ひきこもりは個人の怠惰や性格の問題ではない
――現在、日本には、中高年のひきこもりが61万3千人以上もいるといいます。原因は何なのでしょうか?
藤田 中高年ひきこもりとは、40歳以上64歳以下で、6カ月以上、社会関係が希薄になっている状態にある人を指しています。皆さん、少なくとも何らかの社会経験を有している中で、ひきこもらざるを得ない原因が発生しているんです。大きな要因のひとつとして、“企業における労働問題”があります。職場でパワハラや暴言が繰り返され、傷つけられて離職するも、その後の再就職でも過去の職場におけるトラウマが根強く、人や社会との関係性を維持することに支障が出てしまうんです。
他には“家族との関係性が悪い”場合が多いですね。幼少期から親に大事にされないなど、尊重されない経験が積み重なると、心にダメージが蓄積されます。自尊感情が傷ついたまま社会に出ると、さまざまなストレスを生じますので、社会生活に耐えきれなくなってしまう事例が後を絶ちません。家庭でも職場でも“個人を傷つけること”がひきこもりの原因になっています。
――実際にどんなケースがあるのでしょうか?
藤田 ある40代の男性はIT企業でエンジニアとして長時間労働をしていましたが、上司から暴言や暴力が日常的にあり、離職することを決意しました。しかし、その後の就職活動では、元上司の言動が思い返されてしまい、就職に躊躇しています。現在は預貯金で父母と実家に暮らしていますが、働く先が見つけにくい状況です。また、証券会社で事務の仕事を熱心にしてきた50代の女性は、80代の母親の介護が必要になり、兄弟の支援もなかったため、介護離職しました。母親は数年後に亡くなりましたが、その後、女性は職場にも戻れず、生きがいを失ったような状態になってしまいました。預貯金や退職金、遺産などで暮らしていますが、仕事以外での交友はなかったので、現在はひきこもり状態になっています。
――ひきこもり当事者の親も高齢化していきます。抜本的な解決策はあるのでしょうか?
藤田 ひとつは当事者組織の力を信じるということです。家族だけで問題を抱え込まず、同じ経験をした方たちと交流してほしいと思っています。また、我々もひきこもりに対して、個人の怠惰や性格の問題ではなく、社会構造が生み出しているものだという認識を広げていく必要があります。職場や教育現場のパワハラ、いじめの撲滅など、できることを少しずつやっていきたいですね。
_(聞き手/程原ケン)
藤田孝典(ふじた・たかのり)
1982年生まれ。NPO法人ほっとプラス代表理事。聖学院大学人間福祉学部客員准教授。反貧困ネットワーク埼玉代表。ブラック企業対策プロジェクト共同代表。ソーシャルワーカーとして現場で活動する一方、生活保護や生活困窮者支援の在り方に関する提言を行う。