ということで、前回の「ウナギが釣れるまでとことん粘ることにしました」という所からが、今回のお話であります。
さて、釣り開始から魚の反応はそれなりにあり、水の中は活性が高いことがうかがえる状況。本命が釣れるのも時間の問題と思える展開なのですが、小型のギギと思われる他魚が邪魔してなかなか本命が掛かりません。対岸からも盛んに鈴の音が聞こえますが、ややあって「ボチャン」という水音が毎回続きます。
「嗚呼、あちらもギギに翻弄されているんですなぁ…」
対岸の釣り人に妙な連帯感を覚えつつも、身近な河原でこれほどドキドキワクワクが楽しめて、さほどお金もかからないのですから、これはこれでありがたい限りではないでしょうか。たとえ掛かるのがギギばかりでも…。
しばしそんな時間をすごしておりましたが、21時をすぎる頃より段々と落ち着いてきました。魚の活性が高くて、やたらと忙しい時間もそれなりに楽しいものですが、川面を渡る涼しい夜風にあたりつつ、のんびり静かに待つ時間もまたよいもの。
たまに上流に架かる鉄橋からは、阪急電車が行き交う音が聞こえますが、夜がふけていくにつれ、その間隔が開いていきます。時計の数字を見るのではなく、間接的に時間の経過を知らされる。こんな非日常な感覚も実に趣があるものです。
★静寂破る鈴の音速巻きで確保!
「チリリリリリンッ!」
そんな趣深い時間を切り裂くがごとく、静かな河原に鈴の音が鳴り響きました。
見ると三脚に立てかけた竿が、シーソーのように暴れております! 慌てて竿をつかむと、グイグイと絞め込むような力強い抵抗が…。この手応えはウナギに違いありません。
しかし、ここで油断は禁物。モタモタしていると障害物に潜り込まれたり、糸に巻き付いてハリを外そうとしたり、全身を使ってローリングするなど、必死の逃走を企てるのです。
特に大型になると、抵抗の激しさに加えてハリを外す術にも長けており、巻き上げの最中にフッと軽くなることもしばしば。上げてみると糸にヌルヌルがこびり付いている、なんて悔しすぎる結果になることもままあります。
「外れるなよッ!」
そう念じながら目一杯の速巻きで寄せてくると、バシャバシャと派手な水音で白く長い腹が見えました。勢いにまかせて、そのまま抜きあげ勝負アリです。
ようやく手にしたウナギは、蒲焼きにジャストサイズ。これで土用の丑の日を満喫できますな。
さて、本来なら1尾釣れたらすなわちその瞬間がチャンスタイム! 経験上、ウナギは短時間に釣果が続くことも珍しくありません。
ですが、時計を見るとボチボチいい時間…。一人前には十分な蒲焼きサイズを確保できたこともあり、欲張らずに竿を納めることにしました。
★濃厚な旨味が臭みを凌駕!
さて、都市河川(特に住宅地などの環境がよくない流域)で釣り上げたウナギは、エアーポンプを掛けた状態で生きたまま持ち帰り、きれいな水に3〜4日入れておいてから食べるのがベストです。しかし、さすがに電車の中でブクブクとウルサイ音をたてるのは憚られますし、何より重たい水と一緒に運ばねばならず、オッサンには実にシンドイ…。油断して車内でウナギに脱走されたら一大事ですし…。
というわけで、今回は納竿後に血抜きを施しておき、帰宅後に割いたら、丑の日まで冷凍庫に保存しておくことに決めました。
しかし、割いてみたところ、血抜きが上手くいったのか真っ白な身は非常に状態がよく、実に旨そう。さらに、釣り上げた時は気が付かなかったのですが、体表に綸子模様がうっすらと見え、背はややメタリックがかった色合いをしております。
今までの経験上、この手のウナギは間違いなく旨い! 丑の日まで我慢できないので、このまま蒲焼きで食べることにします。
蒸していないにもかかわらず、やけにふっくらと焼き上がった蒲焼きをパクリ。脂乗りがよく、食感は柔らかくて、やはり非常に美味です。
釣った場所柄、若干の都市河川臭はするものの、ウナギ自体の旨さが勝ってあまり気になりません。そこに熟成を感じさせる濃い日本酒感とガッツリくる甘味からの酸味がたまらない『黒松剣菱』をグイとやる。く〜っ、タ・マ・ラ・ン!
脂の乗ったフワフワな蒲焼きとの相性も絶妙で、最高の晩酌となりました。
食欲に負け、丑の日を待たずしてウナギを食してしまったため、この原稿も夕方の河原でアタリを待ちながら書いております…。
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三橋雅彦(みつはしまさひこ)子供の頃から釣り好きで“釣り一筋”の青春時代をすごす。当然の如く魚関係の仕事に就き、海釣り専門誌の常連筆者も務めたほどの釣りisマイライフな人。好色。