「父や祖父から聞いた話ですが、伝説を馬鹿にして、24日の夜に海へ漁に出た人がいたそうです。しかし、その人は翌日から頭がおかしくなってしまい、精神病院へ送られたといいます」
島の住民はこう語り、海難法師のほこらに案内してくれた。海難法師とは、八丈島を除く伊豆七島に残っている言い伝えで、毎年1月24日、溺死した悪代官の亡霊が海から新島に上陸し、人々に災いをもたらすという。そのため当日、新島の人々は家にこもり、家の戸にはトベラという魔除けの木の枝を差すのだ。
24日の夜、ごうごうと吹きすさぶ風の音と押し寄せる波の音は、暗闇の中で激しく入り混じり、謀殺された悪代官の無念の叫びを思わせた。すべての生者に恨みをぶつける、異界からの呼び声のようだった…。
瞬間、島の人々が今なお儀式を続けている理由が、理解できたような気がした。