大学スポーツが抱える課題は多々あるが、その1つに「スポーツ推薦入試」がある。
2017年、東京六大学リーグに所属する立教大学が第66回全日本大学野球選手権の決勝戦に勝利し、59年ぶりの優勝を果たした。観戦した立大出身で、巨人の終身名誉監督である長嶋茂雄氏も母校の快挙に目を細めていた。
早慶明法東大を加えた6校で争う東京六大学野球連盟は、最古の歴史を誇る野球リーグだ。その中で13回しか優勝したことのない立教は強豪とは言い難い。優勝から遠ざかっていた時期には東大に苦杯をなめることも多く、長く5位が定位置で、最下位に沈むことも珍しくなかった。
それが08年に「アスリート選抜入試」を導入して以降、大阪桐蔭や浦和学院、仙台育英などから甲子園で活躍した選手が入部してきてからは強豪に復帰した。今では「第2の青学陸上部」と言われるまでに強くなった。スポーツ推薦入試(スポ薦)が寄与したのは明らかだ。
スポ薦とは、「主に大学入試において、高校時の競技歴を評価して選抜する入試制度」だ。小論文や面接などを通して学力や人物に対する評価が行われ、一部の大学では実技試験も実施しているが、「競技歴」が重要な評価項目となっている。
「国内では3割を超える大学でスポ薦入試が採用され、加えてスポ薦を名乗らずとも、それに類する入試制度が多くの大学で実施されています。ただスポ薦の課題として真っ先に挙がるのが、学業への不適応問題です。つまり大学に入ってから勉強についていけない事態がしばしば起きているのです」(教育ジャーナリスト)
立教大学OBの大沢親分(啓二=日ハムなどの監督を歴任)が「俺はよお、”野球学部卒”だからよお、長島(茂雄)も同じだが、勉学は関係ねえ。テストのときは名前書いて、すぐ寝た」とテレビ番組で堂々と言い放ったのは有名な話だ
「学業への不適応という問題は、アメリカの大学スポーツでも繰り返し起きています。競技歴が重視される入試制度である以上、避けがたい面はありますが、少なくとも日本の大学入試において、それを防ぐ十分な対策が施されているとは言えませんね」(同・ジャーナリスト)
箱根駅伝や野球、ラグビーなどに代表されるように、大学スポーツは高い人気を維持しており、主要な大会で好成績を収めればメディアの露出、ひいては大学の知名度向上、イメージアップにつながる。青学の箱根駅伝や帝京大学のラグビー大学日本一の連覇がいい例だ。大学側は運動部に広告塔としての役割を期待するが、実態としては、学生の評価が競技歴に偏重した入試となって、学業評価に目をつむることは否めない。
「4年できちんと卒業できない学生が少なくないのも事実です。誰とは言いませんが、実態は中退のプロ野球選手は多い。大学当局に責任があると思います。スポ薦入学者を対象とした学修プログラムを整備している大学もありますが、まだまだ数は多くありません」(某大学関係者)
とはいえ、卒業してしまえば就職の際には引く手あまただ。
「会社に対して従順であるとか根性があるとか、昔ほどではないにしても、まだそういった価値観は生きており、体育会経験を好意的に評価する会社は多いです」(同・関係者)
中日ドラゴンズの新人、根尾選手が脚光を浴びるのも分かる。