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やくみつるの「シネマ小言主義」 「不老不死」は、人類の夢 『セルフレス/覚醒した記憶』

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提供:週刊実話

 いわゆる“よみがえりもの”映画。不老不死は万国共通のテーマで、この作品のような大富豪、人生の成功者であれば尚のこと、渇望してやまない最大の命題でしょう。というわけで、本作のストーリー自体は興味深いものとなっています。
 しかし映画となると、シーンのつなぎ方が断片的すぎて、スッと頭に入ってきません。自分の理解は、果たして合っているのか不安になってしまいます。なので、事前にパンフレットを読んで大筋を掴んでおくか、あるいはパートナーと一緒に見て、後で答え合わせをすることをお勧めします。

 さて、この作品では、「余命宣告された人間が、新しい肉体に自分の脳を移植して生き続ける」ことを「脱皮」と読んでいます。
 この「脱皮」、あながち荒唐無稽なことではなく、クローン羊のドリーからiPS細胞へ、科学技術の流れは確実にその方向に進んでいるように感じます。100年、または200年したら、こういう作為的な輪廻転生も空想の世界ではなくなっているかもしれません。

 本作の主人公のように68歳で末期がんになっても、こんな最強イケメンに脳を転送してもらったら怖いものなし、ヤリたい放題…を夢見るのも楽しいものです。
 そんな誰しもが持つ夢をくすぐる発想はよしとして、いつの間にか組織と戦うハメになって、やたらと長いカーチェイスにはいささか辟易。まるでインド映画のダンスシーンのように、アクションを入れないとハリウッドプロデューサーは許さないんでしょうか。

 とはいえ、このところ永六輔さん、大橋巨泉さん、千代の富士と、昭和の巨星が次々と亡くなって、この映画で「記憶と生死」の関係を考えるきっかけになったことは確かです。
 松山千春が「(大親友だった千代の富士の)ご冥福は祈らん。(自分の脳の中では)お前は生き続けている」といった主旨のコメントをしていましたが、記憶があれば心の中で生きているといっていい。だから、風化してしまった時が本当の死を迎える時と言えるのかもしれません。
 かつて森繁久彌が自分より若い人が死ぬたびにコメントを求められて辛そうでしたが、その役回りが今は黒柳徹子や中村メイコになっています。見送るばかりも、キツいでしょうね。

 人間誰しも平等に、抗いがたい死。遠い将来、この映画のような「脱皮人間」があふれるようになったら…。「あなた何度目?」と挨拶が交わされる映画を、大コケしたSFコメディー映画『ギャラクシー街道』のリベンジとして、三谷幸喜に撮っていただければ…。

画像提供元:(C)2015 Focus Features LLC, and Shedding Distribution,

■『セルフレス/覚醒した記憶』監督/ターセム・シン 出演/ライアン・レイノルズ、ベン・キングズレー、マシュー・グード、ナタリー・マルティネス、ミシェル・ドッカリー他 配給/キノフィルムズ 9月1日(木)より、TOHOシネマズ シャンテ他全国ロードショー。■余命半年と宣告された大富豪の建築家ダミアン・ヘイルは、自分の運命に絶望していた。そんな彼に天才科学者のオルブライトが提案したのは、遺伝子操作で作った肉体へ頭脳を転送することだった。莫大な料金と引き換えに新しい肉体を手に入れたダミアン。しかし、それは遺伝子操作で作られたものではなく、妻子ある特殊部隊の軍人マークの肉体だった。真実を知ったダミアンは秘密組織に命を狙われることとなる。

やくみつる:漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。『情報ライブ ミヤネ屋」(日本テレビ系)、『みんなのニュース』(フジテレビ系)レギュラー出演中。

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