監督/アダム・リフキン
出演/バート・レイノルズ、アリエル・ウィンターほか
現在公開中の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』でタランティーノ監督は、レオナルド・ディカプリオとブラッド・ピットが演じた落ち目の俳優とスタントマンの関係は、バート・レイノルズとスタントマンだったハル・ニーダムの関係に模したそうだ。ニーダムは監督に昇進してからもレイノルズとの友情は続き、『トランザム7000』(77年)などで監督・主演の名コンビを作り上げている。そんなレイノルズが昨年の9月6日に82歳で逝去し、遺作となったのがこの作品である。往年のアクション・スターのラスト・ムービーは、予想以上に感動的な仕上がりとなった。
かつての大スター、ヴィック・エドワーズ(バート・レイノルズ)のもとに、ある映画祭から功労賞受賞の報が舞い込む。渋々参加すると、それは実にショボい手作りの映画祭だったことが分かり、憤慨するエドワーズ。だが、近くに彼の故郷の町があることを知り、映画祭の無気力な世話係の女性リル(アリエル・ウィンター)の運転で帰郷する。人生を振り返る機会を得た彼は、ある行動を起こす…。
映画ファンを安易な予定調和で泣かせようとする見え透いた話か、とタカをくくったら、この世話係のネエちゃんとのロード・ムービーになる後半から、望外な面白さを生む。彼女はタトゥーだらけで、絞れば美人になるかもしれないが、現状は子豚ちゃん。最初はオジサンをムカつかせる存在だが、次第に愛嬌と心意気のあるキャラになってゆく。特に、認知症となり施設に入っていた元妻を訪ね、思い出の場所でキスをするあたり、中高年世代をホロリとさせる。
かつて共演作もあったクリント・イーストウッドが老境にあって“過大評価”される中、過小評価のまま倒れたレイノルズだが、置き土産の遺作が、悲哀とユーモア、ペーソスと自己パロディーに満ちて、こんなに素敵だったとは! 映画祭の手配した宿がシケたモーテルで、「バイアグラはないのか?」とゴネるあたり、かつてセックス・シンボルだった彼の面目躍如でニンマリとさせられた。
全盛期の主演作『脱出』(72年)や前出『トランザム7000』の画面が登場し、現在のレイノルズ=ヴィック・エドワーズが合成で“共演”する演出は、監督の敬意の印。レイノルズは冒頭の『ワンス・アポン――』にも出る予定だったが、撮影前に逝去。でも、この遺作の方が最高の手向けとなった。日本での公開日を彼の命日9月6日としたのは、日本側配給会社の美しい“忖度”と言えよう。
《映画評論家・秋本鉄次》