――40、50代の“ひきこもり”が増加しているそうですね。
山田 私がひきこもりの支援活動を始めて28年たちました。3年後には家族会が立ち上がり、家族の苦悩と向き合うことになりました。ひきこもりに対してどのように対応していいか分からず、子どもを責めて親子関係をこじらせている親が多かったですね。対応の間違いに気付いた時には、時すでに遅し。子どもは心を閉ざして部屋に閉じこもり、気が付けば親と顔を合わせない生活が、5年、10年と続くのです。
――ひきこもりの支援活動を通じて、どんな現場が見えてきましたか?
山田 親たちの一番の不安は、“子どもが高齢化して、親も年を取る”ということです。すでに20年前から今日の状況が危惧されていましたが、いよいよ現実となりました。私たちの調査では、会社を退職してからひきこもったケースもあります。これはかつてひきこもり状態にあった人が、家族や社会の要請で頑張って就職をした後、リバウンドが起きたと考えられます。また、就職氷河期の人たちが非正規や契約社員として、過酷な労働条件を強いられるケースも考えられます。
現在、多くの若者が社会に傷つき不信感を持っています。結婚をせず1人で生きている人にとっては「なぜ、こんな辛い思いをしてまで社会に出なければならないのか」と感じ、そのままひきこもるのは、ある意味、必然なのかもしれません。
――有効な解決策は?
山田 現在、ひきこもりの数は61万人にものぼります。私からすれば、いよいよ顕在化してきたなと感じますね。さすがにここまでくれば、社会全体がこの問題と向き合えると思います。しかし、ここで大きな問題があります。
40、50代のひきこもりの子どもを持つ家族を支援する社会的ノウハウがないのです。そもそも、20代半ばから30代の若者支援も当事者たちには届いていないのが現状なんです。
老後を1人で暮らす人は現在、900万人いると報道されています。高齢化社会に向け、80代の親が50代の子どもの生活を支える『8050問題』に、早急に取り組む必要性を痛感しています。訪問活動をして40、50代の“若者”と語り合うことがありますが、親が望む“働くこと”に関して言えば、とてもハードルが高いのが現状です。今となっては手遅れの感がありますが、せめて1日1日、老いた親と子どもに、安らかな日々を送ってもらうのが、私たちのささやかな支援かなと思っています。
_(聞き手/程原ケン)
山田孝明(やまだ・たかあき)
1953年名古屋生まれ。’94年京都市東山区に若者の居場所ライフアートを設立する。現在は40代、50代のひきこもりの子を持つ家族に特化して「市民の会エスポワール」を主宰する。