関西地方で観光ガイドのボランティアをしている男性のCさん(68)は2年ほど前、外出間際に自宅でトイレを済ませ、ふとズボンを見て驚いた。
太もものところに縦に2、3筋、尿で濡れた跡があり、色が変わっていた。すぐに着替えて出かけたが、ショックだった。以来、用を足した後は、毎回、1分間は便器の前から動かず、尿漏れに細心の注意を払っている。
「初めての“失敗”を思い出すと今でも恥ずかしく、情けない。なので妻はもちろん、周囲の誰にも明かしていない。お客様を連れた外出中でなくてよかったが、今後を考えると不安。最近は尿漏れを防ぐ商品の広告が目に付きますが、自分の老化を認めるようで、とてもじゃないが買えません」(Cさん)
これは、医学的には「排尿後尿滴下」といい、50代以上の男性では3人に1人が経験しているとも言われる症状だ。
男性は女性に比べて尿道が長く、尿道にとどまった尿の一部が衣服を整えた後に漏れ出すことがある。これで自尊心を傷つけられる人もいるのだ。
東京都の会社員男性(47)は、1年ほど前から突然襲ってくる激しい尿意を我慢できなくなった。仕事で取引先へ出向く前などは何度もトイレに行く。それでも過去に1度、トイレに間に合わず漏らしてしまい、ズボンに出来た大きなシミをコートで必死に隠した。
事情を知る同僚に「女性用のパッドを使う人もいるらしいよ」と耳打ちされたこともある。「試してみたいが、自分では恥ずかしくて店頭で買うことが出来ない」と、まだ買ったことはないという。悩みを抱えたまま、神経をすり減らしているようだ。
なぜ「尿漏れ」が起きるのか。その原因を専門家に聞いた。
「全身の筋肉の中で、尿漏れに最も関係するのは骨盤の下にある骨盤底骨です。
そこにある骨盤底骨筋は内臓を正しい位置にキープするため下から支えている大事な筋肉だが、加齢や運動不足などで、筋肉が弱まると尿漏れを引き起こします。年齢を重ねると骨盤底骨筋が弱くなるために、膀胱が勝手に動いてしまう過活動膀胱になりやすいんですね」
こう答えてくれたのは、東京都健康長寿医療センターの桑島隆彦顧問だ。この他にストレスや運動不足などの原因で、尿漏れを起こすことがあると指摘する。
この病気は、命にかかわる重大病ではないので研究はあまりされておらず、医者にかかっても具体的な解決策を提示されることは少ないといわれる。しかし、専門家の中には排尿後の尿滴下の相談をよく受ける人もいるという。
東京・目黒区で泌尿器科医を20年務める専門家は、尿漏れ対策を次のように教えてくれた。
「最近はそうした患者さんが増えています。すぐにできる解決策として『会陰部指圧』と『陰茎引き上げ』の2つの方法を患者さんに薦めています。まず『会陰部指圧』というやり方ですが、ペニスの根本の“袋”と肛門の間にある会陰部を、人指し指と中指の腹で下からグッと突き上げる。ズボンの上からでいいので、排尿後2〜3回繰り返す。これで効果が不十分なら、次に『陰茎引き上げ』を試す。排尿後、ペニスの先を上に向けて体に引き付け、亀頭を20秒間ほどキュッと押さえる。20秒間でうまくいかなければ、30秒から1分間押さえる。パンツの中にしまってズボンのチャックを閉め、ズボンの上から亀頭をしっかり持つやり方でもいいのです」
2つ(「ペニスを上に向ける」「亀頭を押さえる」)がセットになって効果を発揮するので、必ずどちらも行う。20秒から1分間押さえた後は、ペニスを通常通り下に向けてパンツの中にしまえばいいという。
なぜ、この方法が有効なのだろうか。原因を知れば納得できる。