日本をはじめ、アメリカなどの先進国では、透析患者の増加に歯止めがかからないといわれる。死因の第2位を占める心臓、血管系の病気と腎臓病との関係が深いことも判明し、深刻さは一段と増している。そこで、これまで各々の医療科を問わず、「CKD」として全診療科で早期発見・早期治療を推進しようということになったのが、10年前。しかし、まだ認知度は低いのが現状だ。
神奈川県横浜市の男性(50)は今年春、かかりつけの医者から「慢性腎臓病の疑いがある」と言われ、大学病院を受診した。聞いたこともない病名のため、男性は戸惑ったという。
腎臓病といえば、昔から「腎炎、むくみの出る低タンパク血症のネフローゼ」に代表されるのが一般的だった。しかし今日では、腎臓病の末期で尿毒素を起こす最大の原因は、「慢性糸球体腎炎」から「糖尿病性腎症」に変わり、加えて高血圧から進行して腎硬化症へ進展する症例が増えるように、様変わりしてきた。
治療法もこれまでは急性・慢性腎炎、ネフローゼ症候群、糖尿病性腎症、悪性高血圧などの診断名のもとで、専門分野で個々に治療が行われてきた。そのため、腎臓障害が進行して末期状態に近づくと「腎不全」となり、最終的には透析・腎移植へと進行してしまい手遅れの状態になるケースが多かった。
CKDかどうかは肝機能を示す糸球体濾過量(GFR)と呼ばれる数値と、健康診断などで測る「血清クレアチニン」の値と性別、年齢から計算される数値で判断される。数値が大きいほど腎不全に近いと診断される。
横浜の男性の場合、GFR値は「60」で、日本腎臓学会が昨年6月に出したガイドでは「軽度〜中等度」に当たるレベル。自覚症状もなく検査を受けると、血糖値が高いことが判明し、最高血圧も160、最低血圧が105と高く、担当医から「このままでは糖尿病になる可能性が高い。腎機能の低下にも注意が必要」と言われた。
担当医がそう警告したのは、糖尿患者では全身の動脈硬化が進み、細かい血管が多い腎臓は傷みやすくCKDの進行も早いからだった。
医学博士で循環器系クリニックを開く内村尚之院長は、「尿たんぱくがわずかに見つかった段階でも、腎臓が大きなダメージを受けていることが多い」と話す。
それでもこの男性患者は診断結果を踏まえ、朝晩に計2種類の降圧薬を飲み、夜はご飯の量を減らすなどの努力をしたかいがあって、最高血圧は130に低下。GFRも「50」に回復した。
「とにかく高齢者に比べ、若い方や中年は病気の進行が早いのではやめに専門医を受診してほしい。腎臓病が進行する前に、健康診断の結果などに注目し、危険度をチェックすることが重要です」(内村院長)