「代表チームに招集された選手たちが仲良くしすぎるのも問題です。所属チームに戻れば、優勝を争うライバル同士なのに、技術的なアドバイスを送ったりしています」
年長のプロ野球解説者はそう首を傾げていた。
近年、侍ジャパンという代表チームが定着したせいだろう。春季キャンプ前の自主トレを他球団選手と行う選手も珍しくなくなった。サインプレーなどのヒミツの漏洩は考えにくいが、一緒に練習をすれば、「情」が移る。真剣勝負の場に相応しくないのではないかというのだ。
また、NPBスタッフによれば、こんな光景も見られたそうだ。過去のWBC大会中、ベテラン投手が「変化球の握り」を若手たちに教えていた。教えていたのは、フォークボール。そのベテラン投手の投げるフォークボールの軌道は独特なものがあった。「どうやったら、あんなスゴイ軌道のボールを投げられるんですか」と若手が聞くと、彼はボールの縫い目に掛ける指の位置、力加減などを惜しみなく、教えたそうだ。
代表チームではチームメイト、ペナントレースではライバル。「技術的なアドバイスが日本のプロ野球全体のレベルを高めていく」と好意的に捉える関係者も少なくなかったが、批判的な意見はほかにもある。
「各球団の懐事情が分かってしまうというか…」
在阪球団のスタッフの言葉だ。
資金力の豊富な球団ではサプリメントなどが無償提供されている。球場内のラウンジに置かれていて、誰でも簡単に口できるようになっているという。専門知識を持ったスタッフもいて、こうした球場設備やケア体制を見た他球団選手は、「ウチも取り入れるべき」と訴えてくる。
「契約更改の席で、あの球団はどうだったとか訴えてくるんですよ。『ウチは遅れている』なんて言われちゃうと、カチンと来てしまう」(前出・同)
球場設備を比較されるのも、侍ジャパンの弊害といえそうだ。
「12球団のリーダー的存在は巨人の坂本。今回は柳田が仕切っていました」(取材記者)
リーダー的存在の選手が音頭を取って食事会を催し、そこで技術面での情報交換や親睦を深めているそうだ。
高校球児にも“代表チームの弊害”はあった。日本ハムに指名された吉田輝星は、根尾、藤原らの大阪桐蔭メンバーの練習量の多さ、野球に取り組む姿勢を目の当たりにし、自信を失いかけていたという。野球は代表チームの歴史が浅い。「他球団選手と適度な距離感を持って付き合っていく」のは、簡単なようでいて、けっこう難しいようだ。(スポーツライター・飯山満)