総合医療クリニックを運営する医学博士で院長の久富茂樹氏は、こんな指摘をする。
「中高年の人は、心臓が発するサインに気づかないことが多い。高血圧や糖尿病など、何らかの疾患があったり、ストレスや睡眠不足など日頃の不摂生で疲れが溜まっている時、マラソンなどの運動で心臓に負担がかかると、それが引き金になって心筋梗塞などを起こします。競技別では、59歳以下ではゴルフ、マラソンなどのランニング、水泳の順に、60歳以上ではゴルフ、ゲートボール、ランニング、登山の順で運動中に突然死に至ることが多いです。必ず前兆がありますので、それを見逃さないことが重要です。無理はいけません」
さらにこうも付け加え、注意を促す。
「スポーツ中の突然死に繋がる心臓病は、6割以上が不整脈に原因があります。息苦しい、熱っぽい、冷や汗、胸焼け、動悸、息切れ、呼吸が上がる…こういった症状が出たら運動は止め、救急車を呼ばなくてはなりません」
また、こうした体調管理や健康法とは別に、こんな気になるデータもある。
「健康に関心のない人より、健康を常に気を使っている人」の方が検査数値が悪いというものだ。東欧フィンランド労働衛生研究所が調べた結果を、国際医療福祉大学大学院の和田秀樹教授が「現役年齢をのばす技術」(PHP新書)に著している。
内容は、1200人の被験者を600人ずつ、砂糖や塩分を控え、タバコやアルコールを制限したグループと、特別な指示がなく気ままに生活したグループの二つに分け、15年後に健康調査を行った。結果は後者の方が検査数値が軒並み良かったというもの。早い話が“健康オタク”の方が早死にする傾向があるというデータだ。これを同教授は「フィンランド症候群」という。
つまり、病的な肥満は問題だが、無理なダイエットや過度の節制は、そのことがストレスになり、健康に悪影響をもたらし、かえって老化を早めるという。
北里大学病院の理学療法士・新井雄示がこんな一例を紹介してくれた。
「例えば、お正月休みが取れた。いい機会だから体を動かそうと、気負い過ぎもあってかドーンとまとめて運動しようとした。でもこれでは効果が無い。逆に故障の原因をつくってしまいます」
それよりも定年後、フリーで仕事をしている元編集者のMさんのように、「疲れたら休む」は当たり前だが、逆に体を動かすようにしている。そうすると多少の疲れは吹っ飛んでしまうとMさんは語り、さらに、
「自分が好きな事をやっているうちは、そう簡単に倒れません。人から言われたことを嫌々やっているから過労死も起きると思う」とまで言っているという。
確かに体を動かさないと怖いのが、「生活不活発病(廃用症候群)」で、動きたくない、動けない、動けなくなるという悪循環に繰り返しになり、体のあらゆる機能が低下する。何もしないでゴロゴロするよりも、体を動かした方が血流も良くなり、疲れが取れる。
新井氏は「中高年の運動は、1回の量を少なくし、回数を行う“少量頻回”が原則。このことを頭に入れておいて頂きたい」と言う。
忙しくて30分程度のウオーキングも難しかったら、1回10分程度にして、仕事の合間に会社の周囲を3回歩くとか、秘書や部下任せにしていたコピー取りなどの雑用も自分で行う。とにかくマメに体を動かすことが大切と言う。
健康な体づくりに挑戦はいいが“過ぎたるは”を思い起こしてほしい。