東京多摩総合医療センター検査科・血液検査担当医は解説する。
「ノロウイルスは、人の腸に感染して増殖し、糞便とともに大量に体外に排出されます。排出されるウイルス量は、わずか10個から100個ほど口に入っただけで発病するといわれています。すなわち、“大量排出・微量感染”の特性があり、患者の吐物は危険な感染源の一つと言えます。保育所、老人施設、社会福祉施設、クルーズ船など、狭い空間で共同生活する環境において集団感染がしばしば起きているのです」
ノロウイルスは抗生物質が効かず、有効なワクチンも開発されていない。理由は、培養が人以外でほとんどされないことにあり、現段階では研究室内で培養することが困難なためとされている。
そのため、感染を防ぐには日頃の予防が重要になってくるが、ある専門家に言わせると「多くの場合、誤った対策を実践している」という。
ノロウイルスは直径約38ナノメートルと非常に小さく、インフルエンザウイルスの3分の1程度しかない。その分、手のシワの間などに入り込みやすく、少し手を洗った程度では落ちない。おまけに感染力が強く、前述したように僅か10〜100個ほど口に入るだけで感染が成立する。
食中毒を引き起こすサルモネラ菌や腸炎ビブリオのように、大量に入らなければ感染しない事を考えると、驚異的と言える。
こうしたノロウイルスの特徴を押さえ、正しい知識について東京社会医療研究センターの村上剛主任に聞いてみた。
1 アルコール消毒は効き目なし=飲食店などの出入口やトイレに置いてある消毒用アルコールのポンプ器は大きな期待はできない。インフルエンザウイルスはアルコールに破壊されやすいが、ノロウイルスは十分効かない。理由はノロウイルスが「エンベロープ」という脂質性がないので効果がなくアルコールが役立たないから。
2 30秒以上の手洗いが有効=アルコールではウイルスを完全に殺せないから、石鹸を泡立て洗い流す。シワの間にまで付着しているウイルスを落とすには、流水で30秒以上の手洗いを心掛ける。
3 加熱すること=ノロウイルスは高温に弱い。ウイルスを保有しているカキなどの2枚貝は85〜90℃で1分半以上、加熱すればウイルスは死滅する。
4 乳製品が効果的=人の母乳に多く含まれるたんぱく質で免疫力を高めよう。「ラクトフェリン」というナチュラルチーズや牛乳にも含まれ、ラクトフェリン入りのヨーグルトなどは、腸管細胞に付着するノロウイルスを防ぐ効果がある。
5 マスクは効果薄い=ノロウイルスは直接感染が圧倒的に多い。インフルエンザのような飛沫感染は少ない。むしろ患者や保有者の手や指などを介し、ドアノブや手すりにウイルスが付着。それに、触れた人の手に付いたウイルスが口に入るなどして感染する。マスクは吐物からの感染予防には大切だが、日常的には効果が薄い。
また、ストレスが溜まると腸の免疫機能が落ち、普段は無害な細菌が腸の中で増殖し、そのために下痢を起こしてしまう。排出物には大量のウイルス菌が混ざっていることを忘れてはならない。