お勧めはご覧の「魂のラーメン」だ。この美しいデコレーション、眺めているだけで食欲がそそられる。香ばしくトロトロのバラ肉の焼豚、半熟の味付け玉子、たっぷりのアサツキに関西以西のラーメンで見受ける細切りのメンマ。スープの表面を覆っているのは、醤油で下味された背脂だ。一口すすると深い旨味とコク、このスープによく絡む自家製の平打ち麺の食感も心地よい。ご主人の矢辺治氏(残念ながら他界されました)は大のラーメンフリークで、全国のラーメンを行脚すること十数年。果たして自分の舌にしっくりきたのが、尾道で出合ったご当地ラーメンだった。 「これをちょっとアレンジしたらもっと美味しくなるだろうな」 とピンときたらしい。スープは豚の背骨、モミジ、鰹節のほか、はぎ節(カワハギの干物)という珍しい干物を使用しているのが特徴で、これがコクのある旨いスープを表現しているのだ。
また「塩ラーメン」を方々の店で食べるのだが、正直どれも物足りず、損をした気分になる。「タンメン」なら肉や野菜が豊富に入っていて満足できるが、これが塩スープにメンマや焼豚となると、やはり醤油や味噌特有の旨味成分の力強さには及ばない。スープが弱い上に、塩の元ダレに底力がなければ「塩ラーメン」は成立するワケがない。
しかし「麺一筋」の「藻塩そば」は実に力強い味わいに大満足。ここで使われている広島から取り寄せた「藻塩」とは古代の製塩方法の一つで、海水に浸した海藻を乾かし、その焼いた灰をさらに海水で漉し、土器で煮詰めたものらしい。また塩分濃度が低いためまろやかな甘味があるという。
この「藻塩」に、昆布、貝柱、干し海老、日本酒など、さらにまろやかにするため苦汁を少量添加し、四日間熟成させたものが「麺一筋」の力強い塩ダレとなる。この店の基本の力強いスープと合体すれば、その奥行きのある味わいは群を抜く。塩の尖りのないまろやかな旨味、コク、それでいてサッパリとした味わいは、まるで隙のない美味しさだ。具は焼豚のほか、細切りコブと海葡萄のプツプツとした口当たりが楽しく、小皿の醤油味の背脂を浮かべればさらに旨味が増す代物だ。
また「特製つけ麺」や夏場にピッタリの「冷やし坦々麺」なども旨いぞ。
〈店舗データ〉
【住所】東京都千代田区神田三崎町3-1-18 近江ビル 1F
【営業】11:00〜22:30
【休日】年中無休
【アクセス】JR中央線「水道橋駅」西口から徒歩5分 地下鉄各線「神保町駅」A2出口から徒歩6分