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日本球界は大恐慌時代を乗り越えられるのか? 独立リーグ化(下)

 さらに、メジャー挑戦する選手サイド、獲得するメジャー側の新局面もある。まずメジャー挑戦組には、巨人、中日のエースだった上原浩治(オリオールズ)、川上憲伸(ブレーブス)の失敗、レッドソックス・田沢の成功、松坂の舌禍事件による影響が及ぶのは避けられない。2勝に終わった上原、7勝12敗の川上ともにFA移籍だが、34歳という全盛時を過ぎた年齢的な問題が大きなハンディになったのは事実だ。特に上原の場合は後悔があるだろう。大体大から巨人入りしたが、実は一時期メジャーのエンゼルス入りが最有力視されていたのだ。
 「もうエンゼルスで決定、取れないと諦めた時期もあったよ。よくウチは大逆転したもんだと思うよ」。当時、巨人・長嶋茂雄監督がしみじみと述懐したことがある。もし、あの時に上原が巨人でなく、エンゼルス入りしていれば、田沢に先立つこと10年前にアマ球界からいきなりメジャー入りという、球史に残るパイオニアになっていたのだから、本人にしてみれば悔やんでも悔やみきれないだろう。現実には、遅すぎた巨人、中日のエースコンビ・上原、川上のメジャー挑戦の結果、メジャー挑戦するならば、なるべく若い内にという風潮になっている。しかも、同じレッドソックスの松坂vs田沢の明暗劇も拍車をかける。

 WBC日本代表として2大会連続のMVPになった松坂だが、シーズンに入って故障に泣き、3年目の今季は4勝6敗。挙げ句の果てに球数制限のあるメジャー流調整を批判したと、米メディアから大バッシングを浴び、懲罰トレード報道までされている。「メジャー流調整の批判はタブーだ。メジャーリーグが世界最高峰の自負があるだけに、批判は許されない。文句を言うのならば、メジャーに来るなというのが、彼らの誇り高き姿勢だから」とメジャーリーグ・ウオッチャーが明言する。
 キャンプで投げ込みをして、1年間投げ抜く肩のスタミナを作る日本流と対照的な、肩を消耗品と考え、練習から球数制限するメジャー流。日本球界でエースとして働いてきた、しかも「140〜50球投げて完投しても最後に150キロ以上のストレートを投げられる」という驚異のスタミナを売りにする松坂のような立場の投手には、どうしてもメジャー流は違和感がついて回る。が、倫世夫人と親しい女性フリーライターが自らのブログで書いた松坂のメジャー流調整批判の代償は高くついた。ポストシーズンゲームではついに登板の機会さえ与えられなかったからだ。
 約60億円のポスティングでの落札金。6年契約、総額で約61億円。合計121億円かかっている松坂に対しては、ニューヨーク以上に辛らつといわれるボストンのメディアは容赦ない。1年目の15勝12敗でブーイング。2年目の昨年、18勝3敗の成績をあげても満足せずに、「ボールが多くて、早いイニングで交代させられる。もっと長いイニングを投げないといけない」などと非難している。それだけに、3年目の今季の4勝だけには不満たらたらだ。故障の原因にしても、「WBCで投げすぎたからだ」という声があがっており、松坂擁護論は出ていない。
 「チーム内には、メジャー流調整批判事件の後遺症は残っている。来季、出だしでつまずくようだと、松坂の放出論は間違いなく再燃するだろう」とメジャー関係者は断言する。4年目の松坂は一からの出直しどころか、マイナスからの再スタートになる。

 対照的に、日本プロ野球界を経ずにいきなりメジャー挑戦、1年目で2勝をあげた田沢は、2Aで英才教育を施されているから、メジャー流をすんなりと受け入れられる。「ムダ球は投げない。打たれてもいいから、最初からストレートでドンドン勝負する」といったメジャー流のピッチングを徹底的にたたき込まれている。「どうせメジャー挑戦するのならば、日本のプロ野球を経ずにアマ球界から直接飛び込んだ方が近道だともいえる。日本で実績を残した投手はどうしても、日本流を捨てきれないからね」。こう認める元日本人メジャーリーガーも実際にいる。
 挑戦する選手側だけでなく、獲得する立場のメジャー側にも大きな変化が見えてきている。「高いお金を出して、日本のプロ野球のスター選手を取りよりも、安く取れるアマ球界の素材の方が何かと勝手が良い」という、対費用効果の考え方だ。オリオールズ・上原が2年契約、1000万ドル(約9億円)プラス出来高600万ドル(約5億4000万円)。ブレーブス・川上は3年契約、総額2400万ドル(約21億6000万円)だ。それに比べれば、田沢は3年、総額400万ドル(約3億6800万円)といわれているし、菊池に対しては「一番熱心なメジャー球団が総額で6億円を用意した」というが、それでも日本プロ野球界のエース級を獲得することを考えたら、安い買い物だろう。しかも、成功すれば、若いから長期間、戦力として使える。

 あと一歩で菊池獲りに失敗したメジャー球団が来年の斎藤争奪戦で巻き返しを図り、それ以後も一段と攻勢を強めてくるのは間違いない。「メジャーのマイナー化の危機どころか、日本プロ野球界は独立リーグになってしまう」という、球界関係者の非常事態宣言は、そう遠くない日に現実のものになりかねない。
(了)

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