監督/和泉聖治
出演/加藤雅也、中村ゆり、松本利夫、熊切あさみ、余貴美子ほか
ハードボイルドの巨匠・北方謙三原作で、監督は『相棒』シリーズのベテラン、和泉聖治だけに期待は大。おまけに舞台も横浜となれば、セッティングはオッケーとなろう。五十路半ばとなった加藤雅也が、渋く年を重ねた感じで、久々にイイ味を出している。
冬樹(加藤雅也)は横浜で数件の酒場も経営している画家だ。彼を兄貴と慕う信治(カトウシンスケ)は、歓楽街の闇に飲み込まれようとする少女を救うために窮地に追い込まる。やがて冬樹は、凶暴な裏の顔を持つ偽善的団体が誘発する抗争に巻き込まれてゆく…。
ほとんどモノトーンの画面作り、昭和の匂いが漂うローケーションが効果的。最近はほとんどお目にかかれない邦画ハードボイルドのタッチが逆に新鮮だ。非情で、少しウエットで…そのサジ加減が中高年世代の心情にフィットする。この手の作品では、おネーちゃんも大切。“女は邪魔だ”というストイックなヒーローもいようが、“女もいなくちゃ歩けない”タイプをボクは願いたい。
主人公の冬樹には2人の対照的な女性が寄り添う。体が先の関係のクラブのママにさまざまなゴシップでも騒がせた熊切あさみ、心が大事のプラトニックな間柄の人妻役が中村ゆり。適材適所ではある。セフレ気分の熊切がシャワーを浴びるところを加藤が背後から襲い、唇を奪い、濡れねずみになりながら抱き合う。やがて、熊切は正常位で抱かれてアヘアヘを繰り返すという一連の濡れ場で、彼女は顔もエロいが、体もセクシー。一方、中村ゆり演じる人妻も清楚だけではなく、余命いくばくもないと知ると、背中に彫り物を入れることを決意する。加藤はなじみの彫り師(火野正平がさすがに巧い!)に教わり、彼女の背中に墨を入れてゆく…少し唐突で、意外な展開だが、これもまた屈折した愛の形か。死んで焼かれたら彫り物も当然消えるのだが、そんな刹那の時間を大切にしたい気持ちが伝わる。常識じゃ分からないだろうけど。痛みに耐え、声を上げる中村の表情が切なく艶っぽい。これもある種の濡れ場と見立てて、彫刃は“男の分身”か、と思うと急にソソられるね。
あと、好きなシーンは、中村と加藤が街の飲み屋で向かい合い、コップ酒を一緒に“お出迎え”してうまそうに呑むところ。加藤の不精髭が酒にかかる感じがステキだ。こちとら、呑んべゆえの感傷か。でも、こんな“大人の男女の逢瀬”があってもいい、と思った。
クライマックス、主人公への容赦ない扱いもまた、納得した次第だ。
《映画評論家・秋本鉄次》