監督/今井ミカ
出演/長井恵里、小林遥、玉田宙、佐藤有菜、ノゾム、菊川れんほか
監督も、主演の2人も「ろう者」という個性的な作品で、おまけにテーマは同性愛、ということで色メガネで見がちだが、このマイノリティーという点が肝心だろう。ろう者であり、同性愛者であり、地方都市出身者という何重にもマイノリティーな環境の中で、一歩前に踏み出す“同性愛ペア”を暖かく包み込むように描いている。
群馬の手話サークルで知り合ったろう者の華(長井恵里)とあゆみ(小林遥)は、交際を始める。実家に帰った華はそのことを両親に告げるが、いつも味方だった母親に拒絶され、ショックを受ける。苦しんでいる華を見かねたあゆみは、東京で開かれる“ろう者のイベント”に誘う。初めは緊張していた彼女たちも、多様な価値観を持って生きる人たちに触れ、次第に心を開いてゆく…。
身障者に対して、性の話題はタブーなんて逆に差別的と言える。私の家人が手話を学んでいた関係で、ろうの方々と酒も呑んだし、麻雀もしたことがあるが、当然のことながら、ほとんど健常者と同じ、少々しゃべりが不自由なだけのことで、等しく同じ欲望を抱えて生きているわけだ。これまで障がい者の性的欲求を描いた映画では、障がい者対象のデリヘルが題材の『暗闇から手をのばせ』(14年)など数えるほどしかない。そんな中で、マイノリティーで悪いか! という心意気を徐々に体得してゆく“同性愛ペア”の2人の戸惑いから、確信へと至るプロセスが、小さな感動を呼ぶ。同調圧力が強まるばかりの世の中で、多様性こそ、選択肢の多さこそ、個人個人の幸せを呼ぶ、ということをあらためて心に刻みたくなった。
渋谷・ハチ公でナンパされるほどキュートなヒロイン2人。性的な表現にも怖めず臆せず、ラストのキス・シーンの何と爽やかなことよ。限りなくドキュメントにも近いタッチで描かれ、特に、ろう者LGBTQのサークルでの描写はほとんどドキュメンタリーで、各々のろう者の生き方に説得力もある。ここで、ヒロイン2人が実は群馬から来たのに見栄を張ったのか、つい「埼玉から……」と言っちゃうのがオカシイ。群馬と埼玉、そんなに違いがあるんか、とツッコミを入れたくなるね(笑)。『JKエレジー』、『ブルーアワーにぶっ飛ばす』など、最近マイ・ブームな“北関東シネマ”でもあった。北関東を舞台にした邦画は好編の宝庫だ、と実感!
試写後、会場にいた今井監督と談笑し、彼女いわく「ろう者にだって、ヤクザも悪人もいる」と。そこで、「今度は、ろう者の詐欺師映画とか作ってほしい」とお願いしておいた。
《映画評論家・秋本鉄次》