そんな衝動に駆られて、北海道・道東の老者舞漁港まで出張っております。
一応説明しておきますと、「老者舞」と書いて「おしゃまっぷ」と読みます。もうこれだけで北海道な感じが満点です。で、そんな場所でアブラコ(ウサギアイナメ)を狙っております。
山に囲まれた漁港ですから“大自然の隙間にある秘境感”は特濃で、対岸の崖上は目映いほど一面の緑が広がっています。コレよコレ、「北の大地」感が満載ですよ。
そんな老者舞漁港で、開始早々に確保できたのは、定番外道のスジアイナメでした…。外道とはいえアイナメの仲間ですし、開始早々に、というところに期待が持てます。
「この調子なら本命のアブラコだってすぐに釣れるだろう」などと甘い気持ちでエサを付け替え、再び投入。ほどなく何やら掛かりましたが、またしてもスジアイナメ…。う〜ん、チミはもういいのだよ…。
その後もハリに掛かるのは、小さなコマイやスジアイナメばかり。そもそもハリに掛からない小さなアタリも多く、なかなか本命が顔を見せてくれません。まあ、魚が食欲旺盛なのはいいことですし、何よりドキドキ感が味わえます。
ただ、そのうちに潮止まりの時間帯が近づいて、反応が次第に減ってまいりました。う〜ん、うまくいきませんなぁ。
こんな時は、のんびり構えるのがイチバン。エサをたっぷり付けた仕掛けを放り込み、ひと息入れることにします。堤防に座り込み、いかにも北海道らしい景観をしばし堪能することにしました。
外道ラッシュや仕掛けの打ち返しに忙しくするうちに、この絶景を楽しめていませんでしたからねぇ。釣りの楽しみはもちろん魚を釣ることですが、四季折々それぞれの釣り場が醸し出す雰囲気を満喫するのも、楽しいものであります。
★浮かない相手は平たい人気魚!
ひたすらに凪な海、人気のない静かな漁港、遠くまで続く断崖と、その上に広がる緑の景観を楽しんでいると、突如「ガタンッ!」という音を立てて1本の竿尻が浮き上がりました。慌てて竿をつかんで立ち上がり、しっかりとハリに掛かるよう竿を大きく煽ります。
「ズシッ!」
即座に伝わる重量感と、スジアイナメとは明らかに異なる力強い手応えは、本命の期待大。障害物に潜り込まれぬよう、少々強引に寄せていきます。
しかし、足下近くまで寄せても魚は浮上せず、さらに海底方向へと強引に突っ込もうとします。取り逃すようなことにならぬよう慎重にヤリトリを続けたところ、見えてきました。
…ん? なんだかアブラコらしからぬ平べったくて、茶色い魚影なんですけど…。
そのまま堤防上に抜き上げたのは、外道のクロガレイです。確かに、このポイントはガチガチの岩礁帯というよりは、昆布が繁茂する根混じりの砂地。砂地に生息するクロガレイが釣れてもおかしくない環境ではあります。
本命ではないものの、道内では人気のターゲットですし、何より40センチ近い良型。身の厚みも十分で、旨そうな魚体ですから、お土産としては大歓迎です。
すぐに血抜きを施してクーラーボックスへ納め、旨そうな土産と素晴らしい景観に、満足なうちに納竿となったのでありました。
★ぶ厚い身は薄造りで抜群!
クロガレイは釣りのターゲットとしても、食材としても北海道内では人気があります。道外では存在感が薄いものの、流通は一定量あり、春先の「子持ち」の時期になると、東京の豊洲市場にもそれなりの量が入荷します。
「子持ちガレイ=煮付け専用食材」というイメージが強いせいか、価格は比較的お手頃なので、もっと人気が出てもいいと思うのですが…。
そんなクロガレイですが、今回はお造りで賞味することにします。マガレイ、マコガレイによく似ているクロガレイの特徴は、何といってもその身の厚み。強い引きの源となる厚みのある身を薄く削ぎ切りにして、完成です。
軽く醤油にくぐらせた身をパクリと口に入れると、クセはなく、カレイ特有の旨味が非常に強く感じられます。産卵期ではないため身に栄養が回っていること、しっかりと血抜きをして持ち帰ったことなどの諸要因のおかげか、実に旨い!
すっきり淡麗な飲み口の『くしろ海霧』との相性もまた抜群で、素晴らしい景観を思い返しつつ晩酌は進むのでありました。
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三橋雅彦(みつはしまさひこ)子供の頃から釣り好きで“釣り一筋”の青春時代をすごす。当然の如く魚関係の仕事に就き、海釣り専門誌の常連筆者も務めたほどの釣りisマイライフな人。好色。