「ですから、腸内に入ってくる菌が減ったうえ、腸内細菌事態も痛めつけられてしまい、50年前には見られなかった花粉症やアトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎といった新たな病気を生んでしまったのです」(前出・担当医)
このことを踏まえ、東京社会医療研究所の西条公勝主任が言う。
「食器やテーブルなどは、必要以上に除菌をする必要はありません。腸内細菌を取り込んだり痛めつけないためには、テーブルなどにこぼした食べ物を拾って食べるくらいがちょうどいい。そのため、除菌タイプの石鹸やシャンプーの使い過ぎには注意が必要なのです」
理由は、人間の皮膚に存在するブドウ菌やアクネ菌といった常在菌は、皮膚の表面にある脂肪を食べて分解し、皮膚に弱酸性の膜を作っているからだ。
「この膜こそ、アレルギーの原因となるアルゲンや病原菌の侵入を阻止したり、水分を保つ働きをしているのです。従って常在菌を石鹸などでゴシゴシと擦って洗い流すと、皮膚の角質が剥がれてもろくなり、アレルギー物質が侵入してアトピー性皮膚炎を起こしやすくなり、水分が抜けてドライスキンになってしまうのです。悪い菌は洗い流したいと思うでしょうが、洗い過ぎは逆効果。私たちの味方・常在菌が作る酸性の膜さえあれば、皮膚を守ってくれるのです」(同)
近年は感染症や中毒な症などの事故が相次ぐこともあって、我々は清潔や安全意識の高まりから、「菌」に対して敏感になり、一般的にも定着している。しかし同時に、菌に対する制御法も、除菌・殺菌・滅菌・抗菌などの用語や商品など氾濫し、戸惑いを感じる人も少なくないはずだ。
皮膚科クリニックを営む木下恵子院長は言う。
「除菌や殺菌は必要かと思います。トイレを済ませた後、カンテン培地で手に付いた菌の培養をすると、その違いが明らかに出てきます。石鹸で手を洗っても菌は残ります。アルコール殺菌でほぼ大腸菌群は死滅しますが、日常的にアルコール消毒を行うのは疑問が残ります。いずれにしても、自分自身の菌は身体の免疫機能でどうにかなりますが、他人の菌はそれこそ何が付いているかわかりません。そのため外出後の手洗い、うがいは、しっかりと実践してください」
常在菌の保護というと語弊があるかもしれないが、こんな例も知っておく必要がある。
我々が風呂に入って石鹸やシャンプーを使った場合、1回で90%の常在菌が洗い流されてしまうという。若者なら12時間で元に戻るが、中高年は20時間以上かかる。40代以上は風呂の度に石鹸やシャンプーを使う必要はない。水洗いで十分なのだ。また、温水洗浄便座も、使い過ぎると危険だ。皮膚常在菌は肛門の周囲に存在する。大便した時、便に含まれている有害な菌が侵入しないように常在菌が膜を作ってブロックしていることを知っているだろうか。
「温水洗浄便座を1日に何度も使っていると、常在菌が洗い流され膜がなくなってしまう。その結果、排便の度に激しく痛む“肛門周囲皮膚炎”や、膿が溜まる“肛門周囲膿瘍(のうよう)”になる可能性もあります。悪化すると、敗血症を誘発し命に関わるケースもあります」(同)
過度の歯磨きも避けた方がいい。口の中にいる菌で悪さをするのはほとんどいない。そのため、頻繁に歯磨きやマウスウオッシュしていると、虫歯菌を駆逐している菌まで洗い流し、粘膜を傷つけてしまうことになる。
行き過ぎた除菌で体を守ってくれている菌を、わざわざ追い出して病気なったら、それこそ本末転倒だということを知っておこう。