『日本野球をつくった男―石本秀一伝』西本恵 講談社 2300円(本体価格)
★広島カープ初代監督の壮絶な生涯
その昔は“ダサイタマ”呼ばわりで不当にバカにされた埼玉県。だが、それを逆手に取って埼玉がいかに田舎か、どれだけ残念かをこれでもかと自虐ネタ風に徹底して戯画化し倒した映画の数々、『SR サイタマノラッパー』シリーズや最近では『翔んで埼玉』の大ヒットで、今やかつてのマイナスイメージなどすっかり地を掃ったが、それ以上にイメージが激変したといえば、平成以降のパ・リーグだろう。
“野武士野球(西鉄)”と形容すりゃ聞こえはいいものの、18歳で入団時、すでにパンチパーマに口ひげを蓄えていたロッテの愛甲に象徴される個々の選手から漂う“その筋”感。試合中の乱闘発生率の高さに加えて、やたら物騒な響きの名前が目立つ助っ人外国人選手。中でも最たる物件が大毎オリオンズにいたマンコビッチで、その名を告げられたオーナーが思わず「二度手間だろ」と呟いた…とはもはや都市伝説の類にせよ、あんまりだと登録名を「マニー」に変えさせられたはいいが、実働1年で帰国してしまい大して「マネー」にならなかったとか…。そんなパ・リーグがイチローから大谷翔平に至るまで大スター選手を悉く輩出した上、かくもオシャレになるとは想像もせなんだ。
今でこそ“カープ女子”も出現し、黄色い歓声を浴びて強豪チーム化した広島だが、実力のパに比し人気のセといわれた往時、セ・リーグで最も基盤の脆弱な球団だった。本書は戦前に広島商を率いて甲子園を制し、プロ野球が発足すると阪神の監督として巨人との伝統の一戦を定着させ、戦後は誕生したばかりの広島で自ら選手をかき集めて初代監督に就任、球団存続の危機を歴史に残る「後援会」と「樽募金」で乗り切った男の物語。圧巻。
_(居島一平/芸人)
【昇天の1冊】
歴史にあまり興味のない読者も、この男の名前を聞いたことくらいはあるだろう。
明智光秀―。織田信長を死に追いやった「本能寺の変」の首謀者だ。信長を亡き者にすることによって、歴史は変わってしまったともいわれる。光秀は日本史を変容させてしまった重要な男といえる。
その光秀が、来年のNHK大河ドラマの主人公に抜てき(演ずるのは長谷川博己)されたとあって、今、にわかに光秀ブームが起きている。だが、稀代の裏切り者のレッテルを貼られた光秀がいかなる人物だったかは、実は謎に包まれてもいるのである。その実像に迫った1冊が『図説 明智光秀』(戎光祥出版/1800円+税)だ。
信長に臣従するまでの前半生についての史料が乏しく、出自(どこで生まれ、どういう身分だったか)さえ、はっきりしていない。信長に仕えてからは相次ぐ合戦に苦労しながら勝利、出世して重臣となるものの、突然の叛旗を翻して主君を討った理由は?
また、光秀を指して“三日天下”といわれるが、アッという間に羽柴(豊臣)秀吉に滅ぼされた山崎の合戦の敗因は? 援軍が少なかったというが、人望がなかったのか? 読み進めていくと光秀という人物に対する興味が、フツフツと湧き上がってくる。
わずかな間だが歴史の勝者となり、一瞬で敗者に転落した男。矛盾と相克が凝縮したような人生は、週刊実話読者のオヤジ世代にも魅力的に映るのではないだろうか。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)