しかし、斎藤の初勝利で評価を挙げたオトコもいた。プロ3年目の大野奨太捕手(24)である。日本ハムは昨季105試合に出場した正捕手・鶴岡慎也(30)を故障で欠いた。自打球による顔面骨折で、「チーム合流は6月以降」とも目されている。そこでチャンス到来となったのが、09年ドライチの大野。しかし、開幕戦はダルビッシュとの呼吸が合わず、大敗を喫してしまった。
大野が過去2年間、チャンスを掴みきれなかったのは、エース・ダルビッシュとの相性の悪さが強く影響している。
「私生活では仲が良いんです。でも、バッテリーを組むとダメなんですよね。開幕での敗戦後、大野は『ツルさん(鶴岡)との違いを言ってくれ!』と、ダルビッシュに涙目で訴えていました」(チーム関係者)
斎藤を勝たせたのは、大野のリードではないだろうか。5回被安打6、失点4。数字だけ見れば、敗戦投手になっていてもおかしくはないが、注目すべきは当日、斎藤が放った全92球中79球が変化球だったこと。前出のチーム関係者によれば、「変化球主体の投球は大野の指示」だと言う。
「斎藤はストレートに強いこだわりを持っています。『完成形』に近かった甲子園時代の投球フォームを大学で改造したのは、ストレートの球速を挙げるためです」
母校・早稲田大学の関係者がそう言う。
斎藤はオープン戦中盤まで無失点好投を続けていた。変化球で打ち損じを誘う配球だったが、斎藤は「ストレートが走っているからこその変化球。いずれはストレート勝負を」と考えていた。そのストレートに対する自信が崩壊したのは、3月21日(対阪神)。「3回被安打13、失点9」と、釣瓶打ちにされた。
この日の斎藤を偵察したライバル球団のスコアラーによれば、「ストレートだけではなく、変化球の全球種を打たれた」と語り、「自信喪失もあり得る」とほくそ笑んでいた。
こうした不安要素を抱えてのプロ初先発となったが、大野が92球中79球を変化球で構成し、勝利に導いたのである。
前出の関係者によれば、大野はキャンプ最初の休日、斎藤と食事のテーブルが一緒となり、「プロの打線は怖い」と何度も訴えたという。「斎藤は笑っていたが、半信半疑だったのではないか」というのが、同関係者の心象だ。しかし、阪神戦で釣瓶打ちにされたこと、調整登板した二軍戦でも「7回被安打9、失点5」(4月10日)と結果を出せず、大野の忠告にようやく耳を傾けるようになった。大野は「今のストレートでは苦しい」といった旨を訴えてきた。
「初登板の1回表、井口(資仁)にいきなり2ランを浴びました。打たれたのはストレート。大野は斎藤に『ストレートを過信するな』という忠告で、あえてストレートを要求したようです」(前出・同)
井口の一撃で、「92球中79球が変化球」という配球にも斎藤はしたがったのだろう。
また、同日の札幌ドームのネット裏にいたプロ野球解説者の1人によれば、「勝負球の変化球を対戦打者ごとに変えていた」とのことだ。当面は「100球5回」を目処に投げさせていく予定だが、大野には斎藤のパートナーを続けさせるという。ダルビッシュとの不一致解消はこれからだが、先発投手との相性によって、スタメン捕手を使い分けるのも面白いのではないだろうか。