コンブは昔から日本人となじみが深い食材で、以前はコンブで出汁をとる家庭が多かった。現在は手間がかかるので粉末の出汁が一般的だが、やはり直接出汁をとったほうが風味や栄養成分が得られやすい。そこで、千代田漢方内科クリニックの院長で医学博士の信川益明先生は、細く切ったコンブをひと晩水に漬け、コンブのエキスをしみ込ませた「コンブ水」を飲むことをお勧めしている。
「コンブ水は、煮出して作る出汁と同等の効果が得られます。しかも、煮出して作る出汁は熱を加えるので栄養成分の一部が死んでしまいますが、コンブ水ならその心配がありません。コンブには高血圧や高血糖、肥満、動脈硬化などを予防する成分が多く含まれていますが、それらが水中に溶け出すので、コンブ水を飲むだけでお手軽に健康維持をはかることが期待できます。最近では、ペットボトルを容器にしてコンブ水を作る方もいますが、それは『ペットボトルコンブ水』と呼ばれているようです」(信川先生)
コンブを水に漬けると、トロリとしたネバネバ成分が水に溶け出るが、これは「アルギン酸」「フコイダン」といった水溶性食物繊維で、高血圧や糖尿病を改善するのに大事な役割を果たしている。
★降圧作用がある成分
高血圧の原因の1つに塩分の摂りすぎがあるが、アルギン酸が体内に入ると、腸内でナトリウムと結びつき、そのまま便と一緒に排泄される。ナトリウムは塩に多く含まれる成分で、たくさん摂取すると体内に蓄積される。ナトリウムは血液の量を増やす働きがあるが、過度に摂取すると血管に対する圧力が強くなり、血圧を上昇させる。そのため、ナトリウムを体外に追い出す働きがあるアルギン酸は、血圧上昇の抑制に効果的なのだ。
また、フコイダン(海藻類のヌメリ成分に含まれる食物繊維)には、血液をサラサラにして血栓(血管内に生じる血のかたまり)ができにくくなる作用がある。その結果、全身の血行も改善されて血液の循環がよくなり、血管への負担も抑制されて高血圧の改善につながる。
さらに、ミネラルの一種であるカリウムも、血圧の上昇を防ぐのに効果的だ。ナトリウムが腎臓で再吸収されるのを防いでくれるので、高血圧の原因であるナトリウムが尿として排泄されやすくなる。
他にも、コンブ水にはラミニン(巨大たんぱく質の一種)やタウリンといった成分も含まれている。これらが相乗的に働くことが、高血圧の改善につながっていくのだ。ただし、コンブにはヨウ素が多く含まれているので、甲状腺の病気がある人、腫れがある人は控えよう。
★食事前に飲むのが理想
「コンブ水は、食事の前にコップ1/3杯程度飲むのが理想です。とはいえ、毎回と考えると挫折しそうなもの。大事なのは習慣化することなので、自分が飲みやすいタイミングを見つけて飲むようにしましょう」(信川先生)
保管は必ず冷蔵庫で行い、そのまま飲む場合は2〜3日、みそ汁などで加熱するときは1週間以内で使い切ろう。無糖の炭酸やレモン汁で割ると爽やかな味わいになり、しょうがや、ハチミツを加えると飲みやすくなるので、マンネリを感じたら試してみたい。
また、コンブ水は出汁なので、飲むだけでなく、料理に活用するのもお勧めだ。出汁の旨みが効いた料理は、塩分が少なくてもおいしく味わえるので、濃い味つけが好きな人でも減塩効果が期待できる。
「私の家庭でもコンブ水が常備されていて、妻が料理に使っています。私の好物であるサンマの塩焼きにかけたり、汁物や煮物料理に出汁がわりに使っています。コンブ水のおかげもあってか、私の血圧は正常です」(信川先生)
★コンブ水から健康を見直す
信川先生は自身のクリニックでもコンブ水を勧めており、実際に血圧が下がった人もいる。
「仕事柄外食が多く、付き合いでお酒もたくさん飲む方で、最大血圧が150〜160㎜Hg(基準値は140㎜Hg)、最小血圧は約100㎜Hg(基準値は90㎜Hg未満)もありました。ずっと降圧剤を服用していたのでコンブ水を勧めたところ、半年後には最大血圧が110〜120㎜Hg、最小血圧は70〜80㎜Hgまで下がり、降圧剤の服用も激減しました。これはコンブ水の効果もさることながら、こうした取り組みを通じて食生活全体を見直し、日常生活の中で自然な形で改善できたのが、成功の秘訣と思います」(信川先生)
漢方には「食べ物は薬と同じ」という意味の「薬食同源」という言葉があるが、高血圧や糖尿病を放置している人は、食事に無頓着な傾向がある。そのため、コンブ水の摂取が自身の食生活を見直すきっかけになれば、健康を意識した生活が自然に送れるようになるはずだ。
ちなみに、コンブ水の降圧効果には個人差があるので、1〜2カ月続けても変化がない時は、体に合わない可能性がある。効果が出にくいと感じたら、別のアプローチを試してみよう。
また、コンブ水は降圧剤と併用しても問題ないが、血圧が下がれば薬の量が減らせる可能性もあるので、効果が出てきたら医師に相談してみよう。簡単に作れるコンブ水、ぜひお試しを。
◎コンブ水の主な健康効果
・肥満解消に有効! マウスを用いた実験によって、脂肪の吸収を抑制し、体外に排泄する作用がコンブにあることが分かっている。
・糖尿病に効く! 糖尿病に関しては、過食防止に加え、食後の血糖値の急激な上昇を抑えることで、すい臓を守り、糖尿病の予防・改善が期待できる。
・高血圧に効く! アルギン酸が高血圧の原因となるナトリウムと結びつき、体外に排泄されることで高血圧の改善が期待できる。
・歯周病を予防! コンブの旨み成分の1つであるグルタミン酸には、唾液分泌の作用があるので、歯周病や口臭の撃退が期待できる。
・シワを解消! コンブ水に含まれている豊富なマグネシウムは、カルシウムの石灰化を防ぎ、顔のシワの解消が期待できる。
・便秘を改善! コンブ水に含まれる水溶性食物繊維には、腸の内容物をやわらかくして排便を促す作用があるので、改善が期待できる。
◎コンブ水の作り方
ポイント
・必ず冷蔵庫で保管する
・みそ汁に使うなど、加熱する場合は1週間以内、そのまま飲む場合は2〜3日で使い切る
・お好みで、無糖の炭酸やレモン汁で割ると爽やかな味わいに
材料
・出汁用コンブ(乾燥):10g
・水:1L
作り方
(1)コンブを洗わずに霧吹きで軽く湿らせ、切りやすくする。
(2)(1)をキッチンバサミで1〜2ミリ幅に切る。
(3)ポットやペットボトルなどに切ったコンブを入れ、1Lの水を注ぎ、冷蔵庫でひと晩(3時間以上)おく。
無糖の炭酸で割ったり、レモン汁やハチミツを入れたりして飲むのもお勧めだが、写真のように、しょうがを入れると飲みやすくておいしい。
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監修/信川益明先生
千代田漢方内科クリニック院長。医学博士。慶應義塾大学医学部元教授。医療法人社団千禮会理事長、医療健康科学研究所所長、日本健康科学学会理事長、上海中医薬大学客員教授、厚生労働省委員、健康食品認証制度協議会会長等も務める。