勧善懲悪型の分かりやすい時代劇ながら『水戸黄門』などと異なり、一話で話が完結せず、実質的な意味での連続ドラマになっている。『隠密八百八町』は正月時代劇の続編という設定で、正月時代劇から土曜時代劇への連作は初の試みである。舘ひろしは父子二代に渡って主演する。
舞台は『隠密秘帖』の34年後、第11代将軍・徳川家斉の大御所時代である。拝金主義が蔓延し、老中首座の水野忠成(前田吟)の専横や大奥の贅沢により、幕府財政は危機的状況に陥っていた。隠密組は又十郎、神谷家の元用人・喜八郎(津川雅彦)、浪人の木村源兵衛(池田努)、紅一点・おとき(釈由美子)、おときの弟・春之丞(宝海大空)からなる。今回が隠密組の初仕事で、材木問屋の政吉(螢雪次朗)襲撃事件を調査する。
注目は、やはり紅一点のおときである。演じる釈は、時代劇の連続ドラマは初挑戦である。普段の釈は前髪をおろしているが、時代劇では髪を上げるため、額が全開である。釈の額が見られる点でも貴重なドラマである。『水戸黄門』のような露骨なお色気シーンは公共放送では御法度だが、普段見えないものが見られるという点に色気を感じる。
おときは小太刀投げを得意とする大道芸人で、隠密組の中でも前線で活躍する。今回は材木問屋の木曽屋に女中として潜入した。釈はグラビアアイドル出身ながら、『修羅雪姫』や『銀幕版 スシ王子! 〜ニューヨークへ行く〜』などでのアクションシーンの評価が高い。今回の潜入では目立ったアクションはないものの、木曽屋の娘が投げた物を受け止めるなど、その片鱗を見せていた。
『隠密八百八町』は大河ドラマと並ぶNHKの時代劇枠・土曜時代劇の最後の番組になる。相次ぐ時代劇の縮小には、殺陣など時代劇に必要な動きを演じられる役者が少なくなったことが指摘される。『スシ王子』において釈は「アクションといえば釈由美子って思ってもらえるようになりたい」と語っていたが、時代劇でも才能の発揮を期待できる。
(林田力)