同コンクールでの女性の優勝は、日本でもカリスマの名をほしいままにしているマルタ・アルゲリッチ氏以来45年ぶりの快挙ということもあってだろう、4日当日のNHKホールはいつになく異様な熱気に包まれていた。
ところが、いざ演奏が始まるととんでもないハプニングが起こったのである。
この日のアブデーエワ氏の演目であり、ショパンコンクールの課題曲でもある、ショパンの《ピアノ協奏曲第一番ホ短調》の第一楽章の半ば、客席3階席の中央前寄りの席から、浜崎的な女性歌唱の着メロが爆音で響いたのだ…。
携帯電源を切っておくのは常識と思われる。これだけでも、クラシックコンサートではかなりな事故だろうか。
しかしながら、あろうことにこの人(男性らしいが。)の流した着メロは、体感で20秒ほども続いたのである。
おおよそあわててカバンをひっくり返しなどしつつすぐに止められなかったというところなのだろうが、まさに、演奏中に延々と浜崎的Jポップが平行して流れる、という体…であった。
思わぬ悪夢に襲われたアブデーエワ氏だったが、素晴らしい集中力で見事に難局を乗り切り、無事最後まで名曲をミスなく再現。会場は暖かい喝采の拍手に包まれた。
関連のネット掲示板には、「薬を飲む時間だったのではないか」など意味不明の擁護(?)書き込みもあったが、ソノ瞬間、おもわず客席から多数のため息が漏れたのは言うまでもない。日本のコンサートでは珍しい、会場の空気が崩壊する寸前ですらあったのだ。
これでは、自戒したい、とかいうよりも、恥ずかしい限りでありまったく酷い話だ、とでも書くよりなかろう…。
当日は、45年前の覇者であるアルゲリッチ氏も(氏は、当日の指揮者・デュトワ氏の元奥方でもあるが。)、アブデーエワの日本での記念碑的演奏を聴きにNHKホールを訪れていた。残念。
【訂正】分中「45年ぶり二人目の快挙」とありましたが、第4回大会優勝のステファンスカ、ダヴィドヴィチは共に女性ピアニストでユリアンナ・アブデーエワ氏は四人目です。訂正してお詫び致します。