「入ってはならない」だけでなく「見てはならない」というタブーもある。神社に参拝するとき、人は拝殿のさらに奥、本殿に祀られている「ご神体」に対して手を合わせる。ではご神体とはなんなのか。これはいっさい公開されていない。一説によれば、剣や鏡、宝石などといわれるが、見ることは許されていない。そもそも本殿には一般の参拝客は入ることもできない。強引に本殿に立ち入って、ご神体を暴いた人間が謎の死を遂げたという伝承も、各地に残されているのだ。
神社で行なわれる季節ごとの晴れやかなイベントの影にも、陰惨な話は隠されている。いまでこそ女の子の節句として親しまれている雛祭りだが、もともと雛人形とは悪霊がとり憑く形代(かたしろ)だった。我が娘を襲おうとする病苦や災厄を、代わりに雛人形にうつして受け止めてもらう、という風習がもとになっているのだ。そして雛祭りの日は、1年間ずっと穢れや厄を負ってきた雛人形を河や海に流し、あるいは神社でお炊き上げをしたという。そして新しい形代、人形をまた神社で授かるのだ。雛祭りのもとになっているのは、当時の子供の死亡率の高さだ。医療が発達していなかった時代、子供たちはちょっとした病気や怪我であっけなく死んでいった。だからこそ親たちは神社で神に祈り、災いから守ってくれるよう祈った。そして無事に7歳になったら、やはり神社で七五三の儀式を行なった。ここまで育てば抵抗力もつき、ひと安心という年齢なのだ。神社は恐ろしい災厄と戦い、真剣に祈願する場として、日本人の生活に密着してきたのだ。