確かに「負けてばっかり」で、試合出場もままならないロートルボクサーの視点から描くという発想は面白い。ただ、どうしてもボクシング映画の場合、本物の試合ほどのスリリングなシーンは望めません。
一方、この映画では、主人公・スティーブが娘のピアノ購入費のために、試合よりも危険なチャンピオンのスパーリング・パートナーの職にありつきます。そして、チャンピオン役には、本物の元WBA世界スーパーライト級王者が配されています。
さらに、「引き」の映像が多くて、まるで本当に打ち合っているようだと感心して見ていたら、あとで読んだパンフレットに「ファイトシーンには事前の振り付けもリハーサルもなかった」とありました。あの『ロッキー』でさえ、事前に細かな動きが振り付けられ、それが常識と言われているのに、本物の元世界チャンピオンとガチで打ち合っているのですから、この俳優の根性は大したものです。
しかし、出演俳優陣の中で主人公以上に存在感が光っているのは、娘、オロール役のビリー・ブレイン。この映画で初めて知りましたが、すでに大物感が伝わってきます。大女優へと成長するのは間違いない子役なので、目をつけておく価値はあります。
さて、タイトルの『負け犬の美学』について。
「サンドバックなら間に合っている」と冷たくあしらうチャンピオンに対して、主人公が「俺にはあんたにないものがある」と、KO負けの恐怖を乗り越えた経験とその重要性を説くシーンがあります。負けてなお諦めず、戦い続ける多くの敗者がいてこそ、チャンピオンが存在できるのだと。
相撲界でも同様です。40すぎても幕下以下のまま、それでも辞めずに頑張っている力士は大勢います。
関取になれるのが16人に1人程度。その他の「ふんどしかつぎ」には若干の手当は出るものの、家族なんてとても養えません。だから奥さんに頼るしかない。
引退後は、修行で覚えたちゃんこ作りの腕を活かすか、最近では介護士になる人も多いですね。
かく言う自分も、「負け犬の美学」の領域に。
最近、クイズ番組でとんと勝てなくなっているんです。可愛いアイドルが自分に勝って喜んでいる姿を見て、スタッフは大盛り上がり。もはや、それで喜んでもらえるなら、いいんじゃないかという境地です。
画像提供元:(C)2017 UNITÉ DE PRODUCTION - EUROPACORP
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■『負け犬の美学』監督/サミュエル・ジュイ 出演/マチュー・カソヴィッツ、オリビア・メラティ、ソレイマヌ・ムバイエ、ビリー・ブレイン、ライズ・セイレム 配給:クロックワークス 10月12日(金)シネマカリテほか全国順次ロードショー。■40代半ばの最盛期をすぎたプロボクサー、スティーブ(マチュー・カソヴィッツ)は、たまに声がかかる試合とアルバイトで家族を養っていた。そんなある日、スティーブは、ピアノを習ってパリの学校に行くことを夢見る娘のために、欧州チャンピオンのタレク(ソレイマヌ・ムバイエ)のスパーリング・パートナーになることを決意するが…。
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やくみつる:漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。『情報ライブ ミヤネ屋」(日本テレビ系)、『みんなのニュース』(フジテレビ系)レギュラー出演中。