この貯蔵量が少ないと、体温の維持や衝撃から体を守るという基本的な働きが失われる。栄養素が足りない状況になるわけだ。
しかし、エネルギーとして使われなかった中性脂肪は、肝臓や脂肪組織、皮下、血中に蓄えられて、その多くは皮下脂肪になってしまう。それだけでなく中性脂肪が多くなると、血中の中性脂肪値が高くなり「脂質異常症」と言う疾患に罹る恐れが出てくるのだ。
血管などに必要以上に中性脂肪が貯まると、エネルギーが消費されず、善玉コレステロールが減って、悪玉コレステロールが増えてしまう。
東京都三鷹市の三木健司さん(53=仮名)は、健康には絶対的な自信を持っていた。毎年行う健康診断でも、ほぼ「Aランク」の判定だった。視力が少し悪いくらいで、内科はほとんど異常なし。医師に「今の生活を維持してください」と言われていたほどだ。
ところが昨年秋、突然、心筋梗塞に襲われた。一時は大騒ぎになったが、一命は取り留めた。だが、心臓の血管の動脈硬化がかなり進行していることが分かったのだ。
東京都内で総合医療クリニックを営む医学博士・久富茂樹院長はこう語る。
「健康診断などで検査数値が正常範囲内でも油断してはいけません。“食後脂質異常”の可能性が高くなるし、同じように食後、中性脂肪値もハネ上がってしまうことを自覚すべきです。これを軽く考えて対応しないと、恐ろしい心筋梗塞や脳梗塞などのリスクが高くなってしまうのです。そうでない人に比べると5倍ほど高いという報告も上がっています」
中性脂肪が高い状態が続けば、血管がボロボロに傷つき、動脈硬化が進行し、心筋梗塞、脳卒中のほか糖尿病を起こしやすくなる。その境界は150ミリグラム/デシリットル(10〜12時間ほど絶食した空腹時の中性脂肪値)で判断するのが一般的と言われる。
ところが最近、空腹時の中性脂肪は正常範囲内なのに、食後の中性脂肪値がかなり高い人がいることが分かった。健康な人でも、食事をすれば中性脂肪値は上昇するが、その上昇程度が異常ということだ。
ある研究によると、メタボの人が代表的な高脂肪食であるファーストフードを食べると、食後に上昇した中性脂肪値が6時間も高止まりしていることが分かった。一般的に中性脂肪は食後、速やかに代謝されるが、メタボなどで脂質の代謝が悪い人は、血中に長く滞留しやすい。それで動脈硬化が進むと考えられている。
昭和大学横浜北病院循環器センター・工藤俊之医師はこう説明する。
「こうした疾患は、中性脂肪が分解される過程でできる『レムナントリポタンパク』が問題なのです。このうちのレムナントは、血液中のリポタンパクが中性脂肪やコレステロールがタンパク質と結びついて分解されてできる残り屑を指しますが、この測定には専門的な技術が必要になります。ですから健康診断などで調べられることではありません。また、白血球の一種であるマクロファージが、その屑を異物として取り込むと、血管壁に沈着、動脈硬化を促進させます。さらに中性脂肪が高く、善玉のHLDコレステロール値の低い人や糖尿病の人にも、その傾向が強く見られ、総コレステロール値がそれほど高くなくても、悪玉の小型LDLが多いと動脈硬化を進めるというデータも出されています」
いずれにしても、血液がドロドロなどと言われ、血液中の脂質のコレステロールや中性脂肪のどちらか、もしくは両方が増えすぎた高脂血症と診断された人は、すぐに医療機関で治療すべきだ。
★健診結果はうのみにしない
健康診断は、自身の健康状態を知るバロメーターにはなるが、健診の結果だけをうのみにするのは危険だ、と主張をする専門家もいる。
「人には生まれつき持った体質があり、食生活の影響が数値として現れづらい人がいます。例えば、コレステロールは体質が非常に関係している数値です。食生活に気を付け、定期的に運動をしているのに、LDLコレステロールがなかなか下がらないという人は、食生活で何とかしようと思っても難しい。ただ、こういう人は、日頃の食生活の改善で、LDLコレステロールが高いだけで済み、動脈硬化も進まず、経過観察でOKという場合もあります。逆に、少し高いだけでも動脈硬化が進んでしまう場合もあります」
こう語るのは、東邦大学医療センター大橋病院循環器内科・浅原恵一郎医師である。浅原医師は続けてこう説明する。
「毎回の診断での採血は大変ですが、最近の研究ではこれらの変動は体重の変化と関係していると考えられています。1回の結果だけを見るのではなく、過去と比較して数値がどう変化しているのか、どの程度の基準値範囲なのか、家族歴はどうかなど、複合的な観点から判断し、今後の対策を講じなくてはなりません。ところが、医療者側はそこまで出来る時間がない。ですから、患者さん本人が『自分の体を守るのは自分』という自覚を持って、結果をチェックするしかないのです」
実は今、医療関係者の間で注目されているのが、前で述べたように、食後の中性脂肪値だ。これまでの検査では、食後の中性脂肪値を測定する医療機関は少なかった。現代の食事が夕食中心になりがちで、寝ている間中、食後の中性脂肪が高いことは容易に想像がつく。空腹時の検査は一般的だが、中性脂肪は食事の影響を受けやすいため、本当の数値が分かりにくい。
昼にがっつり食べる人は、日中の中性脂肪値も高い。つまり1日の大半、中性脂肪値が高いのだ。だが、本人たちはそれを自覚していない。最も怖いのは、LDLコレステロールなどを下げる薬はあるものの、中性脂肪は薬でのコントロールがしづらいことだ。
メタボ、糖尿病、肝臓病、または痛風の人は、食後の中性脂肪に特に注意が必要だ。