監督/犬童一心
出演/星野源、高畑光希、高橋一生、松重豊、及川光博ほか
松竹の非チャンバラ異色時代劇路線は、どの辺から始まったのか? と思うと、森田芳光監督の『武士の家計簿』(10年)あたりからか。『超高速!参勤交代』シリーズがヒットしたり、すっかり定着したようだ。まあ、現代のサラリーマン社会にも通じる教訓と笑いがウケているのだろう。今回は“参勤交代”ではなく“お国替え”(引っ越し)がテーマ。主要キャスト3人はテレビ・ドラマで各々ヒット作を持つ人気者たちだけに、親しみやすさはあるが…。
姫路藩書庫番の片桐(星野源)は、人と話すのが苦手な引きこもり侍。藩主が言い渡された姫路から大分への国替えの大仕事の責任者に、なぜか抜擢されてしまう。大役におじけづく片桐は幼なじみで武芸の達人、鷹村(高橋一生)や前任の引っ越し奉行の娘、於蘭(高畑光希)に助けを借りるが、片桐の頼りなさが心配。見どころは大掛かりな国替え作業。何しろ失敗すれば切腹覚悟だけにみんな必死。テレビで大ヒットした『逃げるは恥だが役に立つ』のキャラそのまま時代劇の主人公になった感じの星野が“役立たず”なキャラを演じている。対照的に現在放映中の『凪のお暇』で優柔不断な相手役を演じている高橋一生は、豪快な武芸の達人と意表を突いている。それでも、一番いいのは、『過保護のカホコ』『メゾン・ド・ポリス』が適役だった高畑光希。今回は引っ越しのプロのしっかり娘役で、能無しの主人公の尻をたたいて、テキパキと引っ越しをこなすあたりが頼もしい。ボクは“色気のない女優”は苦手なのだが、なぜか彼女だけは気になってしょうがない。彼女が出ているケンタのCMも大好きだ。犬童監督が言っていたが「(彼女に)叱られたいと思わせるタイプ」なんだそうで、なるほど目からウロコ。
今回も、正論を駆使して、ダメな主人公を叱りまくる、励ましまくる。いわば“叱咤激励の女神”なのかもしれない。実年齢は高畑の方が星野より10歳年下なのに“姉さん女房”のように映るのはそのためか。そんな高畑のせいか、映画全体に色気はゼロ。あっ、及川光博演じる藩主、松平直矩(実在の人物で、7度の国替えを申し付けられ“引っ越し大名”とあだ名されたとか)の男色シーンがチラリとあるが、この場合、“色気”とは呼びたくない(苦笑)。
“国替え”という壮大に無駄な事業、負の遺産を次世代に残すことへの疑問などなど、現代にも通じる教訓が多々あるが、個人的には高畑光希の“色気はないが、叱られたい?”魅力に淫したい。
《映画評論家・秋本鉄次》