「敵兵も坊主たちも、ついでに、山中にいる民衆も、まとめて殺しちまえ!」
信長は以前に延暦寺に武装解除を再三通告しており、浅井・朝倉軍に少しでも便宜をはかるようなことをすれば、比叡山を焼き払って皆殺しにすると明言していた。当時の常識からすれば「まさか」と思われるような暴挙。延暦寺の側でも想像すらしていなかったのだろう。が、それは信長の極道気質を見誤っていた。裏切られメンツを潰されたとき、この男はどんな非常識な残酷行為でも平然とやってのける。
織田軍は3万の大軍で比叡山を完全に包囲する布陣を敷いた後、四方から鬨(とき)の声をあげて山中へ突撃した。
建物はすべて破壊して焼きつくし、動くものは人であろうが犬であろうが、すべて殺せ──信長の命令は単純明快にして非情だった。信長の怖さをよく知っている織田軍の将兵は、その命令を確実に実行する。
まさかと思っていた寺域への突撃に加えて、徹底した殺戮。境内にいた修行僧から老若男女まで、約3000人が皆殺しにされ、建物はすべて焼き払われた。
配下の武将が、古今の学識に精通した国宝級の高僧を連れてきて、
「この人物を殺すのは国家的な損失です。どうかお慈悲を…!」
懸命に説いて命ごいするが、
「俺は皆殺しにしろと命令したはずだ」
信長の一喝。百戦錬磨の剛直な武将でも、これ以上は僧の命ごいする度胸はなかった。炎に焼かれ、命からがら逃れた者たちも、捕らえられ斬首されてしまう。信長に逆らう者は、誰であろうが例外なく殺される。僧や若い娘、幼子など陣営にずらり並ぶ首級を、信長は表情を変えることなく冷たい視線で一瞥する。逆らう者に情けは無用。どんなことをしてもケジメを取る。戦国の掟にどこまでも忠実な者だけが、天下を制することができるのだ。