山田氏は日本一の投手コーチとして評価され、かつて1999年には巨人・長嶋茂雄監督と中日・星野監督が大争奪戦を展開。次期監督の座を約束した星野監督が長嶋監督に勝利している。実際に星野監督が中日を退団、阪神監督に就任した2002年、中日・山田監督が誕生。だが、監督としては大失敗で、初年度の02年は3位、翌03年のシーズン途中に解任されている。
「いい投手コーチだったのに、監督としては全くダメだった」と酷評されたのも無理はない。中日監督に就任早々のキャンプで、星野人脈のコーチに対し、「阪神に情報を流しているのではないか」と詰問。伝え聞いた阪神・星野監督が「情報なんかもらわんでも、ワシが中日のことは一番良く知ってるわ」と激怒した事件まで起こっている。
ところが、地に落ちた山田氏の管理職としての能力が見直されたのが、今年のシーズン開幕前のWBCだったわけだ。原辰徳監督が日本代表の投手陣を山田氏に一任。連覇という結果を出したことで再評価されている。しかし、投手コーチと監督というのが全く違う仕事なのは、中日時代の話で歴然としているだろう。
さて、ここで問題となるのが山田氏の出身チームでの地位と名跡である。「阪急時代からの大エースで、オリックスの監督候補生」といわれ、“阪急の顔”だった山田氏だけに、もし阪神監督となった時に思わぬ問題が浮上するというのだ。
というのも、06年に阪神電鉄株が村上ファンドに買収されそうになった際に、巻き起こった虎党の怒りの抗議の声。そのあまりのすさまじさに村上ファンド側は尻込みし、買収は失敗。その後、阪神電鉄を吸収合併し、完全子会社化した阪急HDも、「阪神タイガースは、従来通りに阪神電鉄に経営してもらう」と明言したほど。理由は、球団をオリックスに身売りした阪急電鉄に対し、阪神ファンが悪感情を持っているからだ。「阪急タイガースなんかになったら、応援しないからな」という虎党の拒否反応を熟知している阪急電鉄の首脳陣は、大人の対応で阪神タイガースに不干渉の方針を貫いている。
だが、球界内部ではこうささやかれているのも事実だ。「時間が経てば、いずれ阪急カラーが出てくるだろう。一番分かりやすいのは、テレビ局だ。阪神は朝日放送(テレビ朝日系列)と密接な関係を持っている。阪急の方は関西テレビ(フジテレビ系列)とパイプがある。阪神タイガースに関するテレビ局の力関係が関西テレビに傾けば、いよいよ阪急カラーが出てくることになるだろう」と。
そういう意味でいえば、山田氏は阪急ブレーブス黄金時代のエースであり、阪急カラーの象徴でもある。噂にとどまらず、現実的に阪神・山田監督誕生というような動きが出てくれば、熱狂的な阪神ファンは黙っていないだろう。いよいよ阪急電鉄が阪神タイガースを支配下に置きだしたと判断して、騒ぎ出すのは目に見えている。それだけ山田氏イコール阪急の色が濃いということなのだが…。
さらには、WBCの恨みもあるだろう。日本代表は連覇したが、虎の守護神・藤川球児は準決勝から起用されずじまい。抑えは日本ハム・ダルビッシュ有になり、藤川のプライドはズタズタにされている。
そうした張本人が山田チーフ投手コーチである。就任1年目だというのに、開幕からの長期低迷で真弓監督の途中休養まで要求するほど熱い虎党だけに、阪急OBというだけでなく、阪神の誇りである守護神の藤川を潰した山田氏が監督となったら暴動もオーバーではないだろう。