診断結果を受けて、面談に当たった医師はこう言った。
「下壁梗塞ですね。かなり進んでいます」
それを聞いたAさんは仰天した。
「そんな…。コレステロールも中性脂肪も正常値だった。血圧も130だから、心筋梗塞なんかになるはずがない。先生、いったいどうしてですか」
ショックを受けたAさんは、原因についていろいろ頭をめぐらせてみた。だが、食べるものから、重大疾患につながるようなものは考えられなかった。
ところがこのAさん、口腔内のケアがまったくできていなかった。虫歯が3本もあり、そのすべてが歯周病に侵されていた。そのため口臭も酷い。
山梨大医学部名誉教授(心臓内科)の田村康二氏が言う。
「虫歯や歯周病で繁殖した菌が口腔内の傷から血液中に入ると、それが心臓の冠状動脈まで達したとき、血管の内壁を傷つけて、心筋梗塞になることが最近の研究で明らかになってきました。虫歯だと侮ってはいけません」
歯も体も健康だった人が歯周病菌によって心筋梗塞を発症し、亡くなったケースもあるという。健康だと思っていたのは歯だけで、歯の周りの歯茎や歯を支える歯槽骨は健康ではなかったのだ。
ただし、その亡くなった人は、生前、周りの人から口臭を指摘されていた。死後に解剖した結果、何と心臓の血管の内壁から本来あるはずのない歯周病菌が発見され、歯周病が原因の心筋梗塞で死亡したことが判明したのだ。
「歯周病に罹患したグループは、そうでないグループよりも心臓病のリスクが高いとか、歯周病で歯を支える歯槽骨の骨吸収のスコアが高いグループでは、そうでないグループよりも50%も心臓病に罹患するリスクが高くなっているという報告もあるほどです。いずれにせよ、歯周病原性細菌などによって引き起こされる炎症が、心臓の血管壁を損傷する一つの要因になっているのは間違いありません」(田村氏)