クローザー不在とも言うべく、「9回最後のイニング」で炎上を繰り返す救援陣の不振で、佐々岡カープは大きく出遅れた。
「新加入のスコットにクローザーを託して開幕を迎え、そのスコットがコケると、次に抜てきされたのは菊池保則。菊池保もクローザーが務まらないと分かると、中継ぎの一岡竜司をコンバートしましたが、安心して見ていられません」(スポーツ紙記者)
開幕から28試合にして「サヨナラ負け」が4度…。そんな“クローザー不在”の現状について、広島二軍はすでに動いていた。高卒2年目の田中法彦だ。
田中はウエスタンリーグでセーブポイント数のトップを争っている。
田中は2018年ドラフト5位で菰野高から広島入りした。同年のドラフト1位は、小園海斗。小園はルーキーイヤーから一軍でレギュラーを争うほどだったが、“無名”の田中は「地獄」を見たようだ。
「近年、広島の高卒投手が伸び悩んでいます。3年以内に一軍戦力になると見込んで指名した投手も、一軍と二軍を行ったり来たりという状況です。このままではヤバイと思ったのでしょう。広島は昨年から高卒投手の育成法を一新しました」(球界関係者)
新たな育成法とは、徹底した基礎体力強化からのスタートだ。
科学的トレーニング、合理的な練習法、投げ込み量の制限など平成時代の後半から野球界も「やりすぎは良くない」と練習法が見直されたのだが、広島はあえて時代に逆行することを決めた。
「投球練習をすることもありますが、ボールを握らせてもらえる日は、外野のポールとポールの間を走らされるノックなど、下半身強化をメインとしたトレーニングがメインとなります。牽制や内野の連携プレーが行われる時、新人投手たちは『助かった~』と安堵するくらい、走り込みをさせられます」(前出・同)
昭和時代のド根性式に戻したのだ。
田中が実戦での登板を許されたのは、昨年7月。高校時代から「将来性はバツグン。真っ直ぐももっと速くなる」と他球団スカウトも一目を置いていたが、今季の田中は自信に溢れた表情でストレートを投げ込んでいた。
おそらく、「あれだけ走り込みをさせられたのだから、絶対に打たれない」という気持ちになっているのだろう。
「山本浩二、衣笠祥雄の時代、広島は猛練習を積み重ねて強くなっていきました。体力、技術だけではなく、メンタル的な強さがないと一軍でやっていけないと原点回帰したようです」(前出・同)
ひと昔前、ドラフト候補生に希望球団を選ばせる逆指名制があった。あくまでも当時の話だが、「練習量が多いのでコワイ」と、有望なドラフト候補生はこぞって広島入りを避けていた。しかし、今日の広島はドロ臭い野武士的なイメージは全くなく、スマートな選手たちが厳しくも明るく野球をやっている雰囲気だ。
しかし、令和2年の広島は違う。新人投手たちは練習終了と同時にグラウンドに座り込み、ユニフォームもドロだらけ。昔の体育会系、スポ根ドラマのような光景が二軍球場で繰り広げられている。昭和時代の広島を応援していたオジサンたちは応援するだろうが、カープ女子たちは一軍に這い上がるまでの物語にどんな感想を持つだろうか。(スポーツライター・飯山満)