昨年は中継ぎ~先発~中継ぎと、難しい起用法を任された上で結果を残し、今シーズンは「先発で1年間投げ切るのが理想」とし、順調にコンディションを整えていた。しかし、中継ぎ左腕が手薄な状況から、フタを開ければ中継ぎに。それでも、「どこでも投げられる準備をすることは、ピッチャーとして必要なこと」と切り替え、任務を全うするために全力を尽くす。実際に僅差の終盤の場面、1点もやれない厳しい状況で、前のピッチャーの残したランナーが塁上を埋めている中、クールにマウンドに上がり、ピンチを切り抜ける。颯爽とベンチに帰る“仕事人”の姿は、頼もしいの一語に尽きる。
頼もしいのはマウンドだけではない。選手会長の座も務める石田は昨年、「選手一人ひとりと話す機会が出来て、いい時間が取れた。視野も拡がった」と思わぬ効果も口にした。また、昨年終盤の優勝争いの際、キャプテンだった筒香嘉智と共にチームをまとめ、「一生残る、一瞬のために」とのスローガンも決めた。メジャーへ旅立った筒香のキャプテンシーを受け継ぎ、若き新キャプテン・佐野恵太のバックアップも惜しまず、開幕前のチーム団結のスローガン「心をひとつに」の決定にも一役買った。やっと開幕した6月19日にはチームを代表して、「最前線でサポートして頂いている医療従事者をはじめ、多くの皆様のおかげで開幕することができます。選手一同今日に向けて準備してまいりました。多くのファンに元気や勇気を与えられるように頑張ります」とチームの顔として堂々のスピーチを披露した。
かつては“左腕カルテットの長男”と言われていた男は、今やチームの長男と言っても過言ではない。マウンドでもブルペンでもベンチ裏でも、更には首脳陣及び選手間でも絶対的な信頼感を得ているだけに、圧し掛かるモノも大きいはずだが、淡々とマルチタスクをこなし続ける石田健大。唯一無二の左腕は、今日も当たり前のようにチームをヘルプする。
取材・文 ・ 写真/ 萩原孝弘