「残念ながら現在の感染の状況は、むしろ厳しくなってきている。当初、強く希望していた143試合の予定を、ある程度、減らすことも検討せざるを得ない」
プロ野球12球団と日本野球機構(NPB)は4月3日、都内で臨時の代表者会議を開き、遠隔のWeb会議システムを通じて記者会見した斉藤惇コミッショナーは、日程案を練り直す考えを明らかにした。
当初、3月20日に開幕するはずだったプロ野球。それを4月24日に遅らせての開幕を目指していたが、世界規模で感染が拡大。欧米ではスポーツイベントの6月以降への延期や中止が相次いでいる。そこへ来て、プロ野球でも阪神の選手らが感染し問題は悪化していた。
「開幕が6月以降にずれ込めば、5月26日に開幕予定のセ・パ交流戦、計108試合も中止は避けられない。そこで今季に限り、クライマックスシリーズ(CS)とともに取りやめる方針」(スポーツ紙デスク)
そのため、「新しいルールを12球団で作っていかないといけない」と、斉藤コミッショナーは語った。
「そんな中、検討されているのが、現在のセ・パ12球団を3地区に分けた上で地区優勝を決め、ワイルドカード(地区優勝を逃した中で勝率トップを含める)を上位4チームで戦うプラン。1年限りの変則日程を編成し、シーズンを乗り越えるという苦肉の策だが、省かれた交流戦及びCSを吸収する狙いもある。試合数が半分になった場合、この方法以外に有力な手立てがない」(同)
3地区とは、北海道日本ハム、東北楽天、千葉ロッテ、埼玉西武の東地区。巨人、東京ヤクルト、横浜DeNA、中日の中地区。阪神、オリックス、広島、福岡ソフトバンクの西地区だ。
「先導するのは、経営感覚に優れたパの球団。セ・リーグも経費節減につながることと、阪神の藤浪晋太郎投手ら感染者を出したことが再延長の大きな要因になったことで、反対するのは難しい。同一カードが増えるという反発もあるが、全面中止だけは避けたいという共通した思いはそれ以上に強い」(同)
狙いは、もう一つある。新型コロナウイルスの影響で、経営破綻する球団が出た場合への備えだ。「1リーグ制移行へのシミュレーション」との見方もある。
2004年、大阪近鉄バファローズの親会社の財政が厳しくなったことでオリックス・ブルーウェーブとの合併が決まり、球界再編が起きた。その際、反発した労働組合・プロ野球選手会がストライキ権を行使し、9月18、19日の公式戦が中止となり、球界が大混乱したことは記憶に新しい。
「選手たちは野球協約により1日あたり年俸の300分の1の減俸で済んだが、今回の新型コロナでの試合中止は背景も規模も違う。今後の年俸については白紙の状態で、全面中止となれば球団にチケット料、テレビ放映料、看板料が入らず、選手は無給状態になりかねない。生き残るには知恵を絞るしかなく、選手会もあらゆる面で協力するだろう」(巨人OBの野球解説者)
★財政破綻しかねない球団
日本球界が追随するメジャーリーグでも、トランプ大統領が「経済は二の次。第一に多くの命を救いたい」と軌道修正し、開幕の目処は立っていない。ブルージェイズの本拠地であるカナダのトロントが6月30日までイベント中止を決めたこともあり、開幕は最短でも7月4日(独立記念日)と見られ、シーズン中止の可能性すらある。
それでもMLBは、開幕から逆算してメジャー登録の40人に対し、1日につき最大約50万円を支給することを発表。年俸約7000万円の大谷翔平クラスでも日額11万円程度が補償されるが、マイナーリーグの選手はこの限りではない。
この動きは、日本球界にも波及している。これまで一軍公式戦に出場できる「一軍登録選手枠」は29人だったが、これを「40人程度」に増やす案が協議されているのだ。
表向きは開幕後、新型コロナの感染者が出た場合に備えるためとされているが、補償の問題が背景にある。
「各球団にとって一番の問題は、選手の給与です。現在のベースで支払えば、球団の財政が破綻しかねません。そこで、試合数が減れば選手が受け取る年俸も比例して削減されるMLB方式を参考に、一、二軍を明確にした上で減額しようとしているのです。二軍選手は自由契約と隣り合わせ。しかし、試合がない以上、選手会も強くは出られないのです」(在京セ球団関係者)
全国の主要都市で感染経路が分からないクラスターが発生し、その多くが東京、大阪の影響を大きく受けているという。全国の知事が不要不急の外出自粛を強く要請し、特に東京、大阪への旅行を控えるように訴えているのもそのためだ。
この状況下では、たとえ開幕にこぎ着けられたとしても、各球団の長距離移動は困難を増す。とりわけ、巨人や阪神は歓迎されないだろう。
「ぎりぎり持ちこたえている。まさに瀬戸際の状況」(安倍晋三首相)
こんな状況にあって考えられる最良の手が「3地区の分立公式戦」なのだ。