五輪で侍ジャパンを優勝に導き、金メダルを置き土産にポスティングシステム(PS)を行使してメジャー挑戦。そんなシナリオが、根底から崩れつつある。
日本のプロ野球も大混乱しているが、大打撃を受けているのはアメリカのメジャーリーグ(MLB)も同じ。3月26日に予定していた開幕を延期し、162試合の日程を120試合に組み替え、逆算して5月20日前後の開幕を目標にしている。
しかし、これでは、チケット料金、売店からの収入、ネーミングライツなど、損失は予算規模の小さいチームでも1億ドル(約110億円)との試算が出ている。
「ヤンキースやドジャースなどの有力チームは資金的に体力があるが、その分、選手年俸もべらぼうに高い。日本のエース菅野といえども、今オフは20億円のPSマネー(移籍金)を支払ってまで獲得に乗り出すチームはないでしょう。年俸も買い叩かれるでしょうから、今季の6億5000万円(推定)を維持できない可能性さえあります」(米駐在のスポーツライター)
夢を追いかけ、渡米を1年遅らせて来年の五輪に備えることも可能だが、そうなると、新たな問題が生じる。来季中に菅野が海外FA資格を獲得するからだ。
菅野が海外FA権を取得する2021年を1年前倒しする形で巨人がMLB移籍を容認したのは、2011年のドラフト会議で日本ハムからの1位指名を拒否し、翌年に叔父の原辰徳監督が指揮する巨人入りした「空白の1年」の論功行賞とされている。それもあるだろうが、PSマネーで軍資金を調達する「お家の事情」も込められている。
巨人OBの野球解説者が、声を潜めて明かす。
「トリプルスリーを3度達成したヤクルト山田哲人二塁手獲得の軍資金です。山田に関してはこれまで、ソフトバンクが総額50億円で獲得するという情報があり、巨人は劣勢でした。しかし、ここに来てソフトバンクグループが、保有株の4兆5000億円売却を発表するなど、守りの財務に転じています。グループのシンボル的存在であるホークスといえど、これまでのような大盤振る舞いは考えられず、山田争奪戦からの撤退は避けられそうにありません。チャンス到来とばかり、巨人は菅野の移籍により得られるPSマネーをそっくり注ぎ込むことで、山田獲得をより確実にしようとしているのです」
しかし、正義感の強い菅野は、残留に心が揺れている。MLBは五輪出場選手を「メジャー登録40人以外」と定めており、今オフに渡米すれば、来年の東京五輪出場は不可能となる。
そうなれば、巨人は予定していた軍資金が消え、山田獲得も見送りに…。20億円とトリプルスリー消滅はコロナのせいか。